アイスコーヒーはマグカップで ページ43
「喉乾いた。コーヒー淹れるけど飲む？」
「アイス？」
「ご希望に沿いましょう」
「じゃあアイスで砂糖ちょっとミルクたくさん」
「へーい」
お茶くみ係までやる俺、マジ偉ない？
東大院博士課程卒、ピッカピカの学術博士が心を込めて淹れております。
お客は限定固定で1人やけど。
半ばカフェイン中毒の山本に、特に夜なんかはあまり飲ませたくないんだけども、一度黙ってデカフェを差し出したらがっつりバレて、以来数日にわたりコーヒーを差し出すたびに陰湿に睨まれた。
無言であの視線を向けられるのは、ちょっともう……いや結構心に来るよ？
なので今はもう諦めて、代わりにせめて昼間っからエナドリで水分補給する方を断固として阻止中。やっぱり睨まれるけど。
俺がコーヒーを淹れている間は山本も手を止めて、キッチンと部屋の間をしょうもない会話が右往左往する。
人に働かせて自分だけ勉強するのが申し訳ない、という気持ちがあるのかどうかわからんけど、そうはいってもキッチンに来ることはないから、勘違いかもしれん。
あ、やば。
ドリップに無駄に集中しすぎて、しばらく無言になってしまった。
部屋からも声が来なくなった。
まずい、ほっといたらまた勉強始めてしまう。
慌てて熱々と冷え冷えのマグカップを両手に、部屋に戻ると。
……今日という一日も、やっと終わりが見えてきたみたいだ。
座椅子に胡坐かいて腕を組んだまま、静かに目を閉じる山本の前に、そっとカップを置く。
これはドラマだとオフィスのデスクなんかで
『眠るように死んでる』
フラグが立つ奴ね。いや姿勢いいな、真っ直ぐかよ。
せめて机に突っ伏すとかしてくれ。お前にもオフィシャルイメージってもんがあるやろが。
寝てしまわないように、眠い時はこの姿勢らしいんだが、いやマジ修行僧。
もし寝てたら起こして、と常々仰せつかってはいる。
起こさないと、例のジト目でまたしばらく睨まれる。
でもねえ。
こいつの生活よーっく知ってる俺としては……決めた。
今回は潔く、ジト目を浴びる覚悟をしよう。
くらり、と頭が傾いて、重い前髪ががわさっと目にかかったのに気づきもせず、呼吸音すら立てずに眠ってる。
うーん、これはガチ寝ですね。よしいいぞ、そのまま熟睡しろ。
朝まで目を覚ますな。例え起き抜けに俺が一発張り倒されるとしても。
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作者名：しまむら | 作成日時：2021年7月10日 10時
