大人になった子ライオンと社会人になったナイスガイの話 (ページ37)

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　生きているのは知ってる。
　元気なのも、わかってる。
　集中していろんなことを片付けたいんだろう、ええええわかりますよ。
　ただね。ここにひとつだけ懸念がある。
　あの外面も能力も100点満点の男、生活力偏差値がガチのＦランなんだわ。
　普段はまだマシなんだが、何かに没頭し始めると、途端にその他のほぼ全てを意識外に放り出してしまう。
　ふとした機会にその実態を知ってしまい、以来言いたくないのを我慢して姑ばりに小言をお見舞いする俺を、徐々に鬱陶しそうな目で見るようになったのも知っていた。
　その直後のリモート突入だ。
　渡りに船とばかりに、あいつは俺の居ぬ間の廃人ライフを満喫してる絶対に。
　どれだけ仕事が進もうとも、勉強が捗ろうとも、人間の生活を放棄するのは話が違うんだが？
　決めた。今日仕事が終わったら、アポなしのガサ入れです。

　チャイムを押す。出ない。
　2度目を押しても、出ない。
　モニタ付インターホンの前に俺が立ってるのに反応がない、つまり恐らく、カメラすら見ていない。
　端っから居留守を決め込むつもりかコラ。
　仕方ないのでlineを飛ばす。
　合鍵とかしゃらくせえと思ってたけど、やっぱ今度作ろう。
『来た』
　一言だけ送る。
　一分後、ようやく、内鍵を開ける音がした。

「……お疲れ様、何？」
　外面成分ゼロパーセントの低く掠れた声が、ずっと人と喋ってないせいでますます聞こえづらくなってる。
「こんばんは、風紀検査に来ました」
　機嫌の悪さを隠しもしない顔を眺めつつ、悪徳新聞勧誘並みの強引さでとりあえず家の中に入った。
　何、て何？こっちが聞きたいわ。
「ええー……うざ」
　うざって言ったな今。
　肌と一体化するまであと一息テイストなよれっよれのTシャツと、似たようなもんのハーフパンツ。
　只でさえ伸びるのが早い髪が、ネグレクトの極みで育ち切ったキノコみたいになっている。
　えーとこれは、ひどい。
　仮にもファンという名の人種がたくさんつくような人間の所業とは思えない。
　言いたいことは山ほどあるが、とりあえず動くか。
　部屋に入る前にバスルームに寄り、バスタブにお湯を溜める。
　家主の許可？うっせえわ。
「何、お風呂入りに来たの？壊れたか何か？」
　はあ？風呂に入るのはお前だよ！クズ！