昼食〜帰り道 ページ4
「ところでだ、何もないんだが」
「ですねえ」
「何か食い行く？」
「学会なら付き合います」
「おん、もう限界まで炭水化物摂取して、午後は全血液消化器官に回したる」
「自分で言っといてなんですけど、ダイエットは」
聞く前にもう自動ドアが開いてる。早い早い。
ずんずん歩いていく背中を頑張って追いかけながら、朝のことを不意に思い出した。
「ねえ、予防接種の予約ってもうしました？」
風に吹かれて、茶色いくるくるの髪がふわふわしてる。語彙力放棄。
「今朝した、俺に抜かりはない。山本さんも早くぶちっとやっといで」
「僕も今朝予約しました」
やっと追いついて、横に並ぶ。もうちょっと歩幅を考慮してほしい。
須貝さんはちらっと僕の顔を見てから、Gパンに刺さってたスマホを取り出した。お付き合いします。
｢｢ええと、ここ｣｣
あらまあ。
「同じ日じゃん」
「一枠違いだ……えー」
予約は各自に任されていて、撮影日だの会議だのを避けると、まあ被ってもおかしくはないんだけど。
「何その『えー』は」
あっしまった。まんまと突っ込む隙を与えてしまった。
「いえ特に深い意味は」
よし店に着いた。ウェルカム豪運、ゆっくりしていってね。
「おい」
「こってりに味玉つけちゃおう」
「ここで今日一の声を響かせて社名と名前呼ぶぞ？」
「あ、結構ですー」
そうだ、接種の日は休みか直帰と規定されてる。実質半休じゃん。
「須貝さん、予防接種の後に予定入れてます？」
「いや、さっさと帰ってじっとしてろと福良が言うてるやん」
「じゃあその時に、今日の続きと、あとさっきのネタバレを。喋るくらいはいいですよね」
指定の病院に近いのは、須貝さんの家。
「お邪魔しますよろしくお願いします、あ、そんなお寿司とかお気遣いなく」
「おいぃぃ」
あー久々の油そば、超美味い。
色んな豪運が重なって、ますます美味い。
思ったより時間がなくて、急いで油そばを啜り込みながら、隣を見る。
「すみません、途中で須貝さんの話放り投げちゃって」
「ん、まあええわ。俺もちょっと考え纏めとくから」
もぐもぐしてるうちに、いつの間にか須貝さんの沸々としてた蟠りも消えたみたい。
油アンド炭水化物、マジで偉大です。
思いがけず楽しみな予定が生まれたから、腕が腫れても、痛くなっても、まあいいや。
……打つ前の顔は絶対に見せないけどね。
おわり
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作者名：しまむら | 作成日時：2021年7月10日 10時
