大人になった子ライオンと社会人になったナイスガイの話 (ページ14)

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2017/11 (1) ページ14

　事の始まりは、長い大学の夏休みも終わる頃。
　連日の塾講バイトと草野球でさすがにバテていたところに、田村から電話がかかってきた。
「須貝、いいバイトがあるんだけど」
「おん、塾講より時給高い？」
　いいバイトというからには、まずは金だろ金。
「それは先方と交渉して。面白いことは保証する」
「面白いでメシは食えません！賃金を明記せよ！」
「いや絶対面白いし、俺が思うに、向こうにお前が必要なの。お前さ、YouTuberにならない？」
「はああ？？」
「ほら、東大王に出てた伊沢。開成の後輩。あいつんとこ。今日飲み会誘われたんだけど、お前代わりに行って、ナイスガイの須貝でーす！ってやっといて。それで採用だから」
　お前は、何を、言ってるんだ！？

　その数時間後、初めて顔を合わせる東大王様と数人の陰気な男達の前で、やけっぱちで渾身の自己紹介をしてやった。
　その場で採用だった、意味わからん。

　田村に嵌められた『いいバイト』の正体は、QuizKnockという伊沢が立ち上げた団体の活動を手伝うことだった。
　学びや知識に役立つWeb記事を書くことと、YouTubeの動画に演者として出ることの2つ。
　記事は興味のあることを何を書いてもいいと言われたので、本当に好き勝手書いてやった。褒められた。意味わからん。
　初めて撮影した動画は、大喜利？企画みたいなやつで、これも得意中の得意なので。やってやりましたよ。
　行ってみたら俺が最年長だったけど、みんなバケモンみたいに知識があって、頭の回転が速くて、喋っててずーっとくそおもろい。何でこんなにいろんな情報がだばだば出てくるんだ、こいつら。
　いつの間にか、小さなオフィスを訪れる日が、めたくそ楽しみになっていた。

　めっきり冬が近づいた、ある日の夕方。
　お菓子の袋片手にいつものオフィスを訪れた俺は、ずっと抱えていたもやもやと対峙することになる。
　

　撮影スペースに場所を取られて、せっまい場所に押し込まれているオフィスの事務室。
　ふらりと顔を出すと、まだ誰もいない。
　いやいないわけじゃなく、知らない男が独り突っ立っていた。
　知らない…確かに、QuizKnockの関係者じゃないという意味では、知らない。
　でもこの顔は知ってる。
　こないだテレビで見た、俺の記憶引っ張り出し機能に勝利した男。
　雛壇の天辺にいた早稲田のイケメン君、何でここにおるん。

　いやしかし、ちっちゃ。あのサイズ感、遠近感のせいじゃなかったんかい。