【歌い手】 恋い焦がれる 【短編集】

春＊まふまふ ページ12

春は嫌い。


春は別れの季節だから。


大切な人とのお別れはいつも春だった。





君とのお別れも。


・


『…私、春休み中に引っ越すことになった』

突然告げられたその言葉。


僕にはショックが大きすぎた。

まふ「え…？嘘でしょ？」




『嘘じゃないよ。…ホントはね、もっと早く言いたかった』


そう言って、君は泣いた。

昔から綺麗に泣く君。



僕がその涙にどれだけ弱いことか。

そうして君は、僕の届かない遠いところへ行ってしまった。



好きという気持ちも伝えられないまま。


・


作曲やなんやらでずっと外に出ていなかった。


気分転換に外の空気でも吸いに行こうと思い、家を出た。

近くの公園には、桜が咲き始めていた。



それを見て胸がきゅうっと苦しくなった。





君とのお別れも、こんな感じに桜が咲き始めていたころだった。


まふ「…え？」

頬に何かが伝ったのが分かった。


それが口に入って、やっと涙だってわかった。


外で泣くなんて。


そう思いながら、服の袖でふいたけど、どうしようもなく流れてくる涙は、袖だけじゃ拭いきれなくて地面にポタポタ落ちた。

・→←先生＊伊東歌詞太郎

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す