優しい嘘の境界線 (ページ4)

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ホテル最上階にある鉄板焼きのレストラン。
視覚と嗅覚を刺激され、シェフが目の前で調理してくれるのを横目に隣に座る神宮寺さんと談笑をしている。
その会話の中で彼と私が同じ歳だということが判明した。

「まさかジンくんが同じ歳だったとはね」

会社の経営者ということは前もって知っていたから、彼に釣り合うよう普段よりもお洒落をしてきて正解だった。
彼に連れられたのはドレスコードがありそうな、いかにも高級レストランといったお店。
カウンターの席を通り抜け案内されたのは個室だった。
こんなお店自体来たことがないのに、個室だなんてもっとハードルが上がる。
マナーとか私にちゃんと出来るのだろうかと緊張していると、彼が優しい笑顔と声で話を振ってくれたのでいつしか自然に会話をすることが出来たのだった。

「Aちゃんは年下かなぁって思ってた」
「頼りない感じ出ちゃってる？」
「ううん、そういうんじゃなくて。雰囲気がすごく可愛いから守ってあげたくなる感じ」
「え、あ、ありがとう」

彼はそう、突如甘い言葉の爆弾を投下してくる。
不意打ちで来るそれらに私は、毎度うろたえ赤面してしまう。
恥ずかしさのあまり口元を押さえてフリーズしていると、彼は目尻の皺を更に深くした。

同じ歳だから敬語はなしで。
呼び方ももっとフランクな感じでと提案され、一瞬名前で呼んでみようかとも頭に浮かんだのだが、出会って数日でまだそこまでの勇気はなく、みんなが呼んでいるという“ジン”＋くん付けで落ち着いた。

「オマール海老です」
「ありがとうございます」

シェフが焼き上がりをお皿に並べてくれて、こんがりと焼けた海老のいい香りを肺いっぱいに吸い込んでから箸を付ける。

「美味しい〜！」
「うん、美味しいね」
「食感がぷりっぷり」
「女の子って海老好きだよね」
「そう、なの？」
「うちは小さい会社だからさ、社員みんなで食事する機会とかもあるんだけど、海老が出てくると女の子のテンションが上がる気がする」
「そっか。確かにそうかも。海老が出てきたら嬉しい」

スパークリングワインと一緒にいただくオマール海老はとても極上で、至福のため息が溢れる。
こんな経験滅多にないのでひとりで浮かれてしまっているけれど、彼はきっと慣れているのだろう、そんな私をニコニコと見守るように微笑んでいた。
彼もまたお酒が好きな様子で、なかなかのペースで進んでいくので私も猫を被ることなく一緒に飲めるのが嬉しかった。