優しい嘘の境界線 (ページ24)

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帰りたくないとワガママを言った私を、彼は何事もなかったかのようにタクシーで送り届けた。
もちろん家に着くまで隣に居てくれたけれど、私の胸の中でモヤモヤと負の感情が膨れ上がっていた。
だけどそれを態度に出すことはせずに、優しいキスを受け取って「おやすみ」と手を振り玄関の扉を閉めた。

そんな夜が明けた次の日の朝には、彼は約束通りいつもより早い時間に迎えにきてくれた。
彼の運転で出発したドライブデート。
海へ向かうにはもってこいの晴れ渡る青空から降り注ぐ初夏の日差しが、肌には少しだけ刺激が強かった。
日焼け止めをしっかり塗ってきて良かったと内心呟きながら彼の横顔に目を遣ると、「どうかした？」と視線に気づいた彼がチラリとこちらを見た後、再び進行方向を向いた。

「今日暑くなりそうだね」
「そうだね。薄着してきて正解」
「私も」

爽やかな笑顔、穏やかな口調。
ハンドルを握る手の美しさ。
どの瞬間を切り取っても絵になる恋人。

カーステレオから流れるお洒落な音楽に合わせて彼が時折口ずさんだりして。
聴いたことのない曲でも彼が好きなものなら何だって知りたいし、一緒に聴くだけで楽しくなるのも恋心。

「そうだ。コーヒー買ってあるよ」
「えっ？」
「座席の後ろに紙袋掛かってない？」
「ある！」
「喉乾いてたら飲んでね」
「嬉しい、ちょうど喉乾いたと思ってたところなの。ありがとう、ジンくん」
「どういたしまして」

どんなにネガティブな気持ちになったとしても、それ以上に彼は素敵な感情をくれるから、いつしか笑顔に戻っていく。
贅沢なんて言うもんじゃない。
彼と居られるだけで、彼の恋人になれただけで、十分すぎるくらいに幸せなのだから。

潮風が香る海岸線をしばらく走って辿り着いたのは、海沿いにポツンと建つログハウス。
お洒落な立て看板には“Open”と記されていて、私たちは迷わずお店の扉を開いた。
カランカランとベルが鳴り来客を知らせると同時に視界に広がっていったのは貝殻などで作られた小物やアクセサリーの数々。
海っぽいそれらに胸を躍らせていると、奥から出てきた店員さんにジンくんがすかさず声を掛けた。

「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
「こちらでマリンクラフトが出来ると伺ったんですけど」
「できますよ。二名様でよろしいですか？」
「はい、お願いします」

行こうか、と笑顔で差し出す手のひらに自分のそれを重ねて、小さく頷き返した。