優しい嘘の境界線 (ページ20)

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彼は優しい。
そしてどんな人でも丸ごと受けとめる、心が広い人だと知った。
私だけではなく、誰にでも分け隔てない接し方をする。
仕事中の彼を見ても、デート中すれ違う通行人に対しても、優しさが滲み出ているのだ。

そんな彼を素敵だと思う。
そういう人だからこそ好きになったし、会えば会う程好きが増していく。
だけどそれと同時に、自分だけをえこひいきして欲しいと望んでしまう自分の心の狭さに直面する。
彼にとって私は特別なのか、それを確かめたくて馬鹿みたいに彼を試しては後で後悔するの繰り返し。

『顔が見たいの。テレビ電話していい？』

出張中の彼に、会えない代わりに顔を見たいと要求したり、

『会いたい』

夜も更けた時間帯にそんなことを言って彼を困らせたり。
それでも彼は嫌な顔もせずに、

『どうしたの？寂しくなっちゃった？』
『会いに行ってもいい？』
『ダメ。夜の独り歩きは危ないから迎えにいくよ。三十分待ってね』

と、全部を叶えてくれた。
そんな彼に申し訳ない気持ちになり、今度は自分を責め始める始末。
湧き出る不安を上手にコントロール出来なくて、どんどん深みにはまっていった。

「酷い顔ですね。恋煩いですか？」

仕事の休憩中、後輩がそんなことを言い出した。
もちろん私は肯定も否定もしないスタンスを崩さず「ちょっとね」と愛想笑いをしてお茶を飲もうと水筒に口をつけた所で、

「例のイケメン社長？」

なんてぶっ込んできたので、私は動揺を隠せず口に含んだそれを吐き出しそうになった。

「大丈夫ですか？」
「う、ん。ごめ、」
「そんなに動揺しなくても。前からバレバレでしたよ？」
「え？嘘でしょ」
「二人でコソコソ話してるのも知ってますし、あと甘〜い空気を漂わせてましたからね」

誰にも気づかれないように気を付けていたはずが、いとも簡単に見破られてしまったことに頭を抱える。

「あんなハイスペ彼氏じゃ心配になりません？いかにもモテそうだし」
「そう、だね」

思ったままを伝えたのであろう彼女の台詞に、胸の奥に引っかかるものがあったとはいえ、内心ほとんど心配していなかった。
実際彼はモテるだろうし、声も掛けられるとは思う。

「まあ、でも。すっごく誠実そうですもんね。大切にされてるんだろうな」

彼女の言う通り大切にされている実感があるから、浮気の心配は微塵もない。
ただ声を掛けるという行為に私自身がヤキモキをする。
そして、得体の知れない感情が胸を苦しめていた。