優しい嘘の境界線 (ページ18)

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「よかったね、Aちゃん」

笑い合っていたと思えば唐突にショウさんからそんなことを言われ、何かと思って首を傾げると彼はにっこりと微笑み次の言葉を続けた。

「ジン優しいでしょ」

彼が言わんとしていることを瞬時に理解し「はい」と頷く。

「絶対大切にしてもらえる。俺が保証する」
「ショウが保証してどうするの」
「いいんだよ。本当のことなんだから。ね、Aちゃん」
「はい。もう既にたくさん良くしてもらってます。それにショウさんのお墨付きももらえて心強いです」
「はは、それならよかった」

笑みを保つ彼と、照れくさそうな表情のジンくん。
そして、胸いっぱいの私。

だけど、

「でも、もしジンとケンカしたら連絡して？力になるよ」

そう言って胸ポケットから名刺を取り出し差し出してきたことに私は驚き「え？」と声を漏らした。
私に向けていることは間違いない。
でもそれを安易に受け取っていいものかわからなくてジンくんへ目配せをしたら、彼は目を細めたままゆっくりと頷いた。
それは、受け取っていいという合図。
おずおずと手を伸ばし、名刺を受け取ることにした。

「連絡待ってるね」
「えっと、でも」
「ちょっと、Aちゃんを困らせないでよ」
「ごめんごめん。でもホント、何かあった時のために連絡先だけ交換しとこ」
「何もないけどね。連絡先交換したいみたいだからあとでショウに送ってあげて？」
「う、ん。わかった」

その瞬間、小さく芽生えた初めての感情。
もやもやが心を侵食していく。

ショウさんから貰った名刺を手にし、ジンくんの顔色を伺ってみるけれど、変わらず楽しそうに談笑している姿がそこにはあって。
このもやもやが彼に伝わることはなさそうだと察した。

しばらくすると世間話を終えたショウさんは、私たちとは反対方向へ歩いていき、たくましい背中は暗闇の中へと消えていった。

「俺らも行きますか？」

優しい声音で彼が聞く。
うん、と言いたい所だけれど、どうしてもすぐに頷けない自分がいて、眉間に力を込めて彼を見上げた。
どうしたの？とでも言いたげにピクリと表情筋が動く。
暗くても視線が重なっているのは分かるから、真っ直ぐ見つめて、私は余計なことを考える。

こんな気持ちは胸に留めておいた方がいい。
絶対に言ってはいけないとわかっているのに、どうしても我慢できずに口を開いてしまった。

きっと彼が優しいから、怒らないだろうとどこかで高を括っていたのだと思う。