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彼の指が私の耳に触れてから、どれくらい経っただろうか。
体感ではもう結構な時間をこうしていたと思う。
ドキドキと鳴る心音が体外に漏れてしまうんじゃないかと思うくらい、私の胸は破裂寸前だ。
この先を想像出来ない程、子どもじゃない。
もっと距離を縮めたい。
ドキドキしすぎて今にも倒れそうなのに、もっと、もっとと欲が出てくる。
彼に触れたい、触れて欲しい。
でも、まだ付き合ったばかりで、はしたない女だと思われてしまいそうで。
「どうかした？」
覗き込んでくる彼の顔が音もなく近づいて。
目の前に見えた、キラリと光る瞳。
瞬きで揺れるまつ毛。
筋の通った鼻、ふっくらとした唇。
「Aちゃん？」と名を呼ぶ彼の口元が、スローモーションを見ているみたいにゆっくりと動いていく。
グロスでも塗ったのかと錯覚する程にぷるぷるに見えてくる唇から、目が離せなくなっていた。
ああ、私はどうかしてしまったのだろうか。
気が触れてしまったのかもしれない。
「ジンくん、」
声が、こぼれ落ちていく。
止めどなく、
「ねえ」
制御不可能に。
「キスして」
欲望のままに。
恥じらいをどこかに捨ててしまったようだ。
「ダメ？」
目を見張った彼が表情を停止させたのち、柔らかく微笑み首を横に振った。
「ダメな訳ないよ。俺もしたいと思ってた」
彼の言葉にほっと胸を撫で下ろし息をつく。
私の瞳の奥を覗くみたいにじっと見つめてくる彼を、時折視線を逸らしながら見つめ返すと。
「どんなキスして欲しい？」
彼の口からとんでもない台詞が吐き出された。
どこかに捨ててきたはずの恥じらいも、いつの間にか手元に戻ってきて、一気に顔が上気していくのを感じた。
火照った頬、クラクラする頭。
「ふ、普通ので」
と答えるのが精一杯の私に、彼は悪戯っぽく口角を片方だけ上げると、
「了解」
顔を近づけ、唇を重ねた。
私の指示通り、ただの、触れるだけのキス。
数秒間重なったのち余韻を残し離れていく。
鼻先が触れるくらいの距離感で、互いの吐息が肌を撫でた。
目と目が合い、どちらからともなく笑い合う。
その空気感が照れ臭くて、もどかしくて。
もう一度したい、そう思った時。
頭の中を読んだみたいに、もう一度彼が短くキスをする。
可愛らしい音を鳴らし、彼は元の位置へと戻っていった。
「満足していただけましたか？」
言葉とは裏腹に、何かを含んだ表情で。
「はい」
そんな彼に、また一つ、
好きが募っていった。
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作者名：ルリ | 作成日時：2022年12月12日 22時
