共通ルート７ ページ7
「テレビ、出てました？」
「ああ、前にね」
「やっぱり。お昼の情報番組の変身コーナー、去年くらいでしたよね」
「そう。ちょうど開業したての頃やったかな」
会社の休憩室でよくお昼休みに見ていた番組で、若くして開業したイケメン美容師として度々登場していた。
二十二歳で開業というインパクトが強く残り、頭の片隅に消えずにいたのだろう。
「なあ、君、名前は？」
「あ、えっと、」
先程の二人とのやり取りを思い出す。
あまり深入りするとまた無駄に寂しさを味わうことになりかねない。
今度こそ誤魔化して立ち去ろう。
そう思うのに、目の前で首を傾げて名を待つ永瀬さんの見つめる視線に、その場に張り付けられたみたいに足は止まり、喉の奥から掠れた声が絞り出された。
「A、です」
上目遣いが崩れて、ニコっと口角を上げる彼。
「ええな」
それは褒め言葉だったのだろうか。
その真意を知る術もなく。
ポンと頭に乗せられた手。
女性の扱いに慣れているのであろう彼の行動に、ドキドキ、鼓動を加速させられっぱなしだ。
「ホンマに来てよ。Aちゃんのこと待ってるから」
クールな視線がふと和らいで、ふわりと笑うその人に、きっと百人中、九十五人位は“はい”と返事をしてしまうんだろうな、なんてことを考える。
「それじゃあ、ボーっとせんと気を付けてね」
「は、はい。気をつけます」
「またね」
「はい、また」
彼につられて“また”なんて言葉を口にしてしまった。
気まぐれで助けて、気まぐれで言ったであろう“待ってる”という台詞を間に受けて彼のお店へ行ったとしても、永瀬さんが私を覚えていることなどないだろう。
新規の客として普通に接客されるのがオチだ。
間に受けない、冷静になれ。
これは夢。
ただの夢。
そう、思えばいい。
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作者名：ルリ | 作成日時：2022年3月8日 15時
