ＫＡＩ＊ルート３ ページ33
ゆっくりしていきなよ、という彼の言葉に甘えて少しの時間お部屋にお邪魔することにした。
特に何をするでもなかったけれどテレビを見たり、ホテルのご利用案内に挟まれていた観光のパンフレットを眺めていた。
けれども時間というものは有限で、いつの間にか時計の針が二十三時を過ぎていた。
終電がなくなる前に帰ろうと思い、
「じゃあ、私、そろそろ」
と声を掛けるけれど、目線はテレビに向いたままの彼が間髪を容れずに、
「だーめ」
と阻止する。
ゆっくりと視線がこちらに流れてきて、小さく首を横に振ったと思えば彼はまた柔らかな笑顔を浮かべた。
「もう電車なくなっちゃうから」
「いいよ、気にしないで」
「帰れなくなったら困るし」
「まだAさんといたい」
「でも、」
パーティー会場で見たオールバックにタキシードという大人っぽい雰囲気から、シャワーを終えてベージュのパーカーにデニムのラフな格好へ先程までとはガラリと印象を変え、下ろしている長い髪が幼さを醸し出していた。
その言葉は強引なのに、不快に感じないのは何故だろう。
真っ直ぐ見つめられたと思ったら目を逸らされて、かと思えば何かを含んだ笑顔になっていたり、そんな彼の表情にいちいち翻弄される。
帰らなきゃ、と思うのに。
触れた肩から流れるカイトくんの熱に引き止められるみたいに、ベッドから腰を上げることが出来ない。
それを理解しているのか否か、彼は私の手に自分のそれを重ねて、
「泊まっていこうよ」
そんな突拍子もないことを言い出す。
「さすがにそれは」
「何もしないから。絶対、襲わない。約束する」
「約束、されても」
「このまま帰したらAさんともう会えない気がする」
だからお願い、そう続ける彼は誘うように上目遣いでこちらを見つめて、私からあらゆる選択肢を奪っていく。
何も知らない男の子のところに泊まるなんて危険だ、ましてやお風呂も平気で入ってくるような子だぞ、と頭の中で警鐘が鳴る。
それなのに私は、
「本当に何もしない？」
「うん、絶対」
「約束破ったら殴るよ」
「破らないよ。物騒だなあ」
そう言ってアハハと笑う彼に、絆され流されてしまう。
この可愛い男の子のことを、もう少し知りたい。
そう感じていた、二十三時間際に。
彼の、ひまわりみたいな笑顔が可憐に咲いた。
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作者名：ルリ | 作成日時：2022年3月8日 15時
