ＪＩＮ＊ルート４ ページ27
カシャン、コトン。
会話の止まった静けさの中、食器の音が小さく響いている。
訪れた沈黙にそわそわしているのは私だけのようで、神宮寺さんは紅茶を啜りながら目前に広がる窓の外をぼんやり眺めていた。
彼の視線の先には、高層階からの美しい夜景。
沢山のビル群と遠くに見える観覧車。
チカチカと流れていく車のブレーキランプも小さく見えて、ロマンチックな景色を演出していた。
そんな中、余計な想像を繰り広げないよう黙々とケーキを食べている私。
美味しいのは間違いないのだけど、なんだかドキドキして肝心の味がよくわからなくなってきた。
彼が笑って、目が合って、恥ずかしいくらいに甘い言葉を貰って。
「夜景も綺麗だけどさ、やっぱり月の光には叶わないよね」
彼の視線がこちらに流れて、ふと、重なる。
一瞬口元が緩んだ気がしたけれど、彼はそのまま、
「月が、綺麗だね」
なんて、深読みしてしまいそうな台詞を言う。
「そうですね」
私は、当たり障りのない返事ばかりを口にしていて、それなのにつまらない女だと思われるのが嫌だなんてことを思う。
それでも彼は穏やかな口調のまま、
「あのさ、Aちゃん」
と、じいっとこちらを捉えた。
目は真っ直ぐ向いているのに、口元だけはピクピクと動いていて、その理由を考える隙もなく弧を描いた唇から白い歯が顔を覗かせた。
「可愛いからそのままでもよかったんだけど」
そう言って、向かい合わせの彼の手がスッと伸びてきて、私の口でピタリと止まった。
口角を滑る指先。
笑いを堪えきれずに震える声。
「クリームついてる」
白い塊が彼の人差し指にちょこんと乗っていて、「はい」と唇の手前へと戻ってくる。
“舐めて”という彼からのメッセージをすぐに読み取り、面食らう。
そうすべきか、せざるべきか。
頭をぐるぐる駆け巡るけれど、「ほら」という催促の言葉にせざるを得なくなり、その指をパクリと口にした。
「恥ずかしい、です」
「顔、赤くするところも可愛い」
柔らかで少しねっとりとした彼の声がさらに追い討ちをかけて、顔を両手で覆い隠す私に、彼の楽しげに笑う声が耳に響いた。
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作者名：ルリ | 作成日時：2022年3月8日 15時
