ＲＥＮ＊ルート３ ページ19
「すごい、」
「めっちゃ似合ってる」
「別人みたい」
「そう？スッピンも可愛かったけど」
「恥ずかしいので忘れてください」
「どっちも可愛いよ」
そんなむずがゆい台詞を言ったと思えば、なんの前触れもなく顎に指が添えられ、クイっと横へと持ち上げられた。
何が起こったのか理解出来ずに目を丸くしていると、先程まで鏡越しだった視線が直接絡み合うようになる。
真っ黒な瞳がこちらを見つめ、その瞳の中に自分が映り込むほどに距離が近づいていく。
鼓動が早鐘を打ち、バクバクと体の外に音が漏れてしまいそうだ。
キスされる。
そんなことが頭をよぎった時、
「まつ毛ついてる」
目の下へと伸ばされた指が何かを摘み、その声を境に元の距離へと戻っていった。
キスじゃなかった。
ホッとする気持ちと、勘違いした恥ずかしさ。
そして、少しだけ残念に思っている自分もいて。
色んな感情が交差して、胸が苦しくなる。
「そんな顔せんといて」
困ったように笑う永瀬さん。
おでこに手を当て、どこか遠くを見つめている。
私はまた鏡越しに彼を見て、鼓動が落ち着くのを待っていた。
私は一体どんな顔をしていたのだろう。
彼を困らせてしまったのだろうか。
「このまま帰るのもったいないね」
彼がそう言った時にはもう、飄々とした態度に戻っていて、
「デートしていこう」
背後から両肩へポンと手を乗せ、顔のすぐ横へとまた距離が縮んだ。
「デート？」
「せっかくのお洒落、楽しもうよ」
そんな彼の提案に、私は一つの答えしか見つからない。
緩んでいく頬。
大きく頷いてみせれば、彼もまた頷き返し。
これは微かな、恋の予感？
密かに心を躍らせた。
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作者名：ルリ | 作成日時：2022年3月8日 15時
