ＲＥＮ＊ルート１ ページ17
「バスルームは左のドアね。お風呂は溜めてないけどシャワーでええ？まずはその汚れ綺麗に落として。顔までしっかり流してきてね」
さっきまでの沈黙が嘘みたいに、部屋に着いた途端に彼が早口で喋り始めて、なんとか聞き取れた言葉の通りバスルームへ直行した。
永瀬さんの指示通り、頭から爪先まで洗い流した。
ポタポタと滴る髪の毛をタオルで押さえて、鏡に映る姿を見れば、顔まで綺麗に洗ったことにより化粧も落ちてしまったことにハッとする。
やってしまった、という後悔はあるけれども、既にどうすることもできないので潔く諦めることにした。
髪の毛を念入りにタオルドライした後、脱衣所のハンガーに掛かっていた女性用のワンピースに気がつき、これを着るということなのだろうと勝手に納得し袖を通した。
先程まで着ていたものと比較的似ているシンプルなオフホワイトのワンピース。
髪を乾かそうとドライヤーを探したけれど見つからず、脱衣所を出て部屋の主へと尋ねることにした。
「永瀬さん、すみません」
「おお、出たね。服置いといたのわかった？」
「はい。でもこれ、いつの間に？」
「ホテルの人に手配してもらった」
「そうだったんですね。後でお支払いしますね」
「ええの、ええの。カイトに請求しとくから気にしないで」
「いや、でも」
「汚したん、アイツやし。当たり前」
「そうですか」
「そういうもんです」
そう言いながら近づいてくる彼に、ドライヤーの置き場所を尋ねるけれど「こっち来て」と言い彼は私の背中を押しドレッサーの前へと連れて行く。
そして椅子を引き、ここに座ってと言わんばかりにアイコンタクトをしてきたので、それに従い腰を下ろした。
「お客さま、どんな髪型に致しましょう？」
鏡越しに、彼の涼しげな瞳がこちらを見つめる。
「えっと」
「俺を選んでくれたお礼に大サービス。ヘアアレンジしちゃう」
「いいんですか？」
「喜んで」
ドライヤーのスイッチを入れると熱風が起こり、湿った髪の毛を揺らす。
彼の細い指先が髪を滑る。
時々、耳の裏に指が当たりくすぐったさを覚えた。
「どういう髪型にする？」
風の音が邪魔をして互いに聞き取りにくく、自然と声も張り上げる。
どんな、と聞かれてもすぐには思い浮かばなかったので、
「お任せで」
そう返せば、彼の唇がゆっくり弧を描き。
「腕が鳴るねえ」
と意味ありげに頷く彼はとても楽しそうで、そんな姿を鏡越しに見つめるだけで、私も嬉しくなっていた。
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作者名：ルリ | 作成日時：2022年3月8日 15時
