共通ルート１１ ページ11
「カイト、怖がらせちゃダメだろ」
彼の横からハスキーボイスが掛けられて、その声に年下風の彼がしゅんと肩を落とす。
「可愛いドレスも台無しにしちゃった。弁償するよ」
「いやいや、全然。安物なので気にしないでください」
「そう言うわけにはいかないよ」
「ほら」という言葉を掛け声にして、スッと近づいた彼の腕が、突如背中と膝の裏へと滑り込まれて、持ち上げようとその手に力が込められた。
「え？なに？」
「なにって、抱っこだよ？」
「ちょ！ちょっと待って！」
抱っこは抱っこでも、このまま持ち上げられればお姫様抱っこというやつになってしまう。
間違いなく注目を集めてしまうだろう。
それだけは切実に回避しなくてはいけない。
「本当に大丈夫なので！どうかお構いなく！」
中途半端なところで動きを止めた彼の腕からするりと抜け出し、逃げるようにその場から駆け出した。
これ以上は無理だ。
いい夢を見させてもらったその代償と思えば、こんなドレスの染みなどこれっぽっちも気になりやしない。
最初に出会った、優しい雰囲気の神宮寺さん。
真面目で真っ直ぐに見つめてくれた岸さんと。
クールな視線が素敵な、永瀬さん。
名前は聞きはぐってしまったけれど、ピンチを救ってくれた芸術的美貌の持ち主の彼。
そして、可愛らしさと色気を兼ね備えた年下風の男の子。
どれも皆、自分とは別世界の人たちで、彼らとの時間はとてもとても幸せだった。
だから、“ごめんなさい”よりも“ありがとう”が似合う別れにしたかったな、なんて果たせなかった願望が胸を占める。
出入口の扉をくぐりホワイエを抜けていき、その先の螺旋階段を駆け降りる。
あのおとぎ話だって十二時の鐘が鳴る前に帰っていった。
本当の姿を王子様に見られないように。
だから私も。
「待って！」
静寂に響く、一つの声といくつかの足音。
逃げなければと足を急ぐけれども、あっという間に追いつかれてしまい、階段の途中で腕を掴まれてしまった。
「捕まえた」
振り返らなくてもわかる、その正体。肩を揺らし呼吸を整えているのは、
「おねえさん、ダメだよ。まだ帰らせない」
カイトと呼ばれていた、男の子。
甘えた口調で強引な台詞をサラリと言ってのけるその彼は、優しげに目を細めた。
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作者名：ルリ | 作成日時：2022年3月8日 15時
