恋、みつけ (ページ1)

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いつもより着飾った格好。
滅多に履かない高いヒールの軽快な音を響かせながら早足で進む。
時折後ろを振り返りながら、誰もいないことに胸を撫で下ろす。

とあるホテルの小さな会場から抜け出して、出口を探し彷徨っている。
普段は方向音痴と言うほどでもないが、大きなこのホテルの中では右も左も判別が難しく、恥ずかしながら迷子になっているというわけだ。
両親が勝手にセッティングしていたお見合いの途中で、作り笑いに疲れて「ちょっとお手洗いに」と席を立ったまま脱走した。

あとで両親にこっぴどく叱られるのは目に見えているが、好きでもない人と結婚するなんてごめんだし、できればこれから運命の人に出会って、そして恋に落ちてから結婚したいと夢見るのは、二十四歳の私には決して遅すぎることなんてないと思うのだ。

しばらく歩いたあと、視界が開けた場所へと辿り着く。
さっきお見合いをしていた会場とは比べ物にならないほどの広さを誇るボールルーム。
開いたままの入口から中へ足を踏み入れる。

廊下の静寂とは正反対の賑やかな空間。
男女共に正装に着飾った大人たちがグラスを片手に談笑している。
場違いかとも思ったけれど、入口でスタッフからシャンパンなんか渡されちゃったりして、入場の許可をされたのじゃないかと勘違いをし、少しくらいならいいかと、ちゃっかりお邪魔することにした。
シェフの格好をした男性が生ハムをその場で薄く切り分けているのが目につき、その誘惑に負け吸い込まれるように近づく。

「どうぞ」

ピックに刺さった生ハムを受け取ると、迷わず口へ。
程よい塩味が唾液腺を刺激し、「美味しい！」と感嘆の声を止められなかった。
そんな私の声は周囲の視線を集めてしまい、その中の一人、美しい顔をした金髪の男性と目が合った。
その美しさに一瞬時が止まったような錯覚を起こし、ドキンと胸を鳴らすけれど、声を出してしまった恥ずかしさと、勝手に入り込んでいるのがバレてしまわないかと心配になり、急いで視線を逸らし、壁の方へとそうっと移動し、人々から背を向けた。

びっくりした。

早まる鼓動はそのまま、グラスのシャンパンを一気に流し込む。
アルコールが血液から全身へと回っていくように、かあっと体温が上昇していくのを感じた。