【短編集】【実況者】あの子は生きている子なのだろうか？

震災の朝　sio ページ49

ふと思い出した、高校生の頃に体験した大震災の時の話。


被害の比較的小さい地域だったのだが、住んでいたのは築10年程のマンション８階で、結構揺れた。


(姉のピアノは固定台から外れ30cm程動き、食器棚は倒れ中身はほぼ全壊。台に置いていた電子レンジや炊飯器は、コンセントが引っこ抜けて部屋の端から端まで吹っ飛ぶといった状況だった)


家族全員地震に飛び起き、もしもの時の避難にとりあえず着替えだけは済ませようとしていた時…玄関のチャイムが鳴った。


インターホンに出てみればAだった。


そういえば今日はAが早くにうちに来るということを思い出した。


とりあえず家に入れ、


「え…こんなすごい地震なのに何で来れた？？マンション揺れてなかったのか？」


と聞いた所、きょとんとして


「へ、何それ？あ、何かこの家散らかってるね〜どうしたの？｣


と、地震を知らない様子。


しかも、エレベータで上がってきたという。


Aの家からうちまでは徒歩で10分程度。
寄り道はしなかったということなので、逆算すると丁度揺れてる真っ只中に家を出て、余震もある中歩いてきた事になる…


「ブロックとか瓦とか落ちてこなかった？」と言っても


「ううん、全然」


という返事。
さっぱり訳がわからない。


だが、とりあえず今日は止めようとAを促し、階段で下まで降りた。


一階ロビーで見ると、案の定エレベータは止まっていた。
マンションの壁には幾筋も亀裂が入っている。


近所の一軒屋の瓦は3分の1程道に落ちて割れているし、道路もひび割れ隆起するなど、周囲もなかなかひどい状況。


Aはそれを見て心底びっくりしたらしく、「ちょっと帰る」と走って帰っていった。


後日聞くと、Aの家も被害が大きくて驚いたとの事。


何故Aが地震に気付かず、余震もある中エレベータで８階まで来られたのか…。


鈍いだけなのか、守護霊でもいるのか、はたまた時空の歪みでも通ってきたのか。


自分にはよくわからない。



震災の朝＿塩

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