【短編集】【実況者】あの子は生きている子なのだろうか？

夢　tntn　【wrwrd】 ページ25

俺自身、明晰夢はよく見るし、変わった夢には慣れっこだが、昨夜の夢は全く別物だった。


森の中の小道を一人下っている。すぐにそれは夢だと直感した。
鮮やかすぎる緑と坂道を靴底が擦る感覚は、まさしく明晰夢だった。


普段は明晰夢と分かると、すぐ目を覚まして眠り直すのだが、なぜかそうしようとは思わなかった。
小道を下る。目の前に現れるのは見知らぬ廃屋。朽ちた木造の日本家屋だった。


相当に古い。100年物の建物だが、大きさからすれば家ではなく物置かもしれない。


「こんな家知らないんだが…」


思わずつぶやいた。明晰夢に見知らぬ場所が現れたのは初めてだ。
廃屋の中は薄暗いが、開け放たれた木戸から差し込む日光で、完全な暗闇ではなかった。


埃をかぶったタンスや、蜘蛛の巣がはった姿見が、雑然と放置されている。


床には木板や小さな木箱、なぜかコマやあやとりなどがちらかっている。


完全な廃墟だ。


おいおい、何で俺はこんな場所に入ってるんだ？何でそんな暗がりに足を進めるんだ？


全てが思い通りになる明晰夢の中で、俺は、何を、している？
土間の衝立の向こうを覗き込む。


俺はそこに何があるか、きっと『知っていた』。だから驚かなかった。


紫の着物の上に、黒く長い艶やかな髪が広がっている。それはうつぶせに倒れた少女の姿だった。
両手両足を地面に投げ出したその姿。俺は死体を連想した。
なぜ俺はそんなことをしたのだろう。


少女の着物を掴み、仰向けに起こした。


思いのほか若い、まだ１２、３歳ほどの少女だ。眠っているみたいな顔でで生死は分からない。
しかも、着物がびしょびしょに濡れていた。


突然、俺の携帯電話が鳴った。場違いな、しかしできすぎたタイミングに肝を冷やす。
メールの着信だった。タイトル無し。


『きたか』


あけみ？なぜか、この少女の名前だと思った。その瞬間再びメールが着信した。


『よるじ』


なんだこれは？今度こそ本当に訳が分から…


「うおお！？」


眼前に迫ったそれを両手で振り払った。少女が跳ね起きて両手を俺に突き出したのだ。
目が開かれている。その目は光がなく、なにもかも諦めたかのように真っ黒。


少女が口を開けた。通常ではありえない口の中。真っ白い歯ではなく、血肉を貪ったような赤い歯。何故口を開けたのだろうか？


その理由はすぐに明白になった。


俺を喰らうため。


「うわっ！」

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