89:願い ページ41
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クラピカに連れられた先は、ひとけのない休憩室だった。泣いている私に周囲の視線が集まっていたから、気を遣ってくれたのだろう。
「ほら、水だ。少し飲むといい」
『く、クラピカ…!』
「脱水症状で倒れられても困るからな」
『……お手数をおかけします!!』
冷えた水で喉を潤すと、気持ちも少し落ち着いた。
クラピカは私の隣に座っており、どこか遠くを見つめている。今後のことを考えているのかもしれない。
…そうだ、クラピカは覚悟を決めてるんだ。
私なんかが、邪魔しちゃいけない。
クラピカのこれからを思うとそれだけで胸が締め付けられたが、私はぐっと堪えて笑顔を浮かべた。
『ごめん、また迷惑かけちゃった。水飲んだら落ち着いたし、もう大丈──…』
「全く、Aは嘘が下手だな」
『……え』
「あくまで推測だが。……Aの涙には、別れとは別の理由があるんじゃないか?」
……さすがクラピカ、略してさすピカ。とても鋭い目と頭をお持ちで。
『……寂しいのも、もちろんあるんだけど』
言葉をこぼすのと同時に、両手にあるペットボトルをぎゅっと握りしめた。
『私は、みんなに幸せになってほしくて』
「…どういうことだ?」
『みんなのことが、クラピカのことが大好きだから、幸せになってほしくて。…もちろん、クラピカは旅団を追わなきゃいけないことは分かってる。覚悟を決めてるって分かってるんだけど、』
私は絞り出すように声を出し、クラピカの目をまっすぐに見つめた。
『それでもやっぱり、自分のことも大事にしてほしい。クラピカも楽しいこと、好きなことをして…幸せになってほしい』
「……A」
『これから、いろいろある…だろうけど、それでも…っ』
やばいやばいやばい、限界オタクが過ぎる。
またも泣き出した私に、クラピカは呆れたように苦笑を浮かべた。
「…Aは仕方のない奴だな」
『ゔっ…すみません…』
「だが、その気持ちは嬉しいよ」
クラピカはそう言うと、ぽんと私の頭に優しく手を置いた。
「今さら同胞を置いて私だけ幸せになるなんて、おそらく出来ない。私には…そんな資格ないからな。だが…それでも、今のAの言葉は、私の中に残り続けると思う」
『……クラピカ、』
「一次試験のとき、"私を見ていると元気が出る"と言っていたな。……私も、お前を見ていると少し楽になる気がする」
クラピカはふっと切なげに笑うと、私の頭からそっと名残惜しそうに手を離した。
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温故知新(プロフ) - 柏餅さん» わわ、いつもありがとうございます〜!!🥲💖愛されと逆ハーは永遠です……!!! (4月13日 16時) (レス) id: a95c51921b (このIDを非表示/違反報告)
温故知新(プロフ) - おじいちゃんパンチさん» 本当に一周されたんですか!?!??めちゃめちゃ嬉しいですありがとうございます…!!😭🙏💖コメ主さまこそ優しさの天才です🥲💖💖 (4月13日 16時) (レス) id: a95c51921b (このIDを非表示/違反報告)
柏餅(プロフ) - 夢主ちゃんいろんな人に好かれてるの好きすぎます😭 (4月12日 19時) (レス) id: 55951e8f98 (このIDを非表示/違反報告)
おじいちゃんパンチ - いや!!もう一周してきたけどハンター試験編は温故知新様のが1番面白いな!!天才かよ!!!天才だったな!すんまそんっっ!!! (4月11日 7時) (レス) id: 8e40b31507 (このIDを非表示/違反報告)
温故知新(プロフ) - まめさん» 嬉しい…!😭💘心臓爆発のご報告ありがとうございます!!!(?)カルトちゃんの可愛さや魅力を少しでも書けていましたら、夢書きとしてもオタクとしても大変嬉しいです…! (4月11日 6時) (レス) id: a95c51921b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:温故知新 | 作成日時:2024年2月1日 18時