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雨音が鼓膜を揺らす。
雨粒が俺の身体を打つ。
--たった一人の女の子を、助けてやれなかった俺は。
アルと一緒に、東方司令部の階段で蹲っていた。
「いつまでそうやってへこんでいる気だね」
「…うるさいよ」
身を打つ雨の一粒も、静かに語りかけてくるクソ大佐の言葉も。
今は何もかもが、煩わしい。
…何が国家錬金術師だ。
…何が"お兄ちゃん"だ。
俺は、目の前の少女と犬にさえ、何もしてやることが出来ない。
「軍の狗よ悪魔よと罵られても、その特権をフルに使って元の身体に戻ると決めたのは君自身だ。これしきのことで立ち止まってる暇があるのか?」
その言葉に、ぐっ、と俺はコートを強く握り締めた。
「『これしき』………かよ」
静かに言葉を紡ぐ。
もう、何が何だか止められなかった。
「ああそうだ、狗だ悪魔だと罵られても、アルと二人元の身体に戻ってやるさ」
「だけどな、オレたちは悪魔でも…ましてや神でもない…」
「人間なんだよ!!たった一人の女の子さえ助けてやれない…ちっぽけな人間だ……!!」
立ち上がって俺は叫んだ。
そんな俺を一瞥して、大佐は静かに言う。
「…風邪をひく。帰って休みなさい。」
そのまま大佐は、中尉とともに行ってしまった。
ざあ、と打ち付ける雨の中、どうしようもなくなった俺はただ立ち尽くす。
その時、すっ、と俺に打ち付けていた雨が消えた。
同時に俺の身体に影が差す。
「…A」
『ほら、風邪引くってば。行こう』
アルも、と、俺に傘を持たせて、自身の傘も開いたAがアルを立ち上がらせた。
ほらほら、と彼女が背中を押す。
「…あんた、知ってただろ」
『ん?』
「…タッカーが、奥さん使って合成獣を錬成したこと」
『あー…何となく、ね。』
ふう、と彼女は横で溜息を着いた。
傘をさして並んで歩く俺達の足元で、ばちゃり、と水溜まりが音をたてる。
さっきは五月蝿かった雨の音が、今はあまり聞こえてこなくて。
代わりに、彼女の声がよく耳に響いてきた。
『"合成獣"とは--遺伝的に異なる二種以上の生物を対価として創り上げられた生物のこと。対価とされた生物の特徴、特性を併せ持った新たな一つの生命体を生み出すことが可能である…』
「…合成獣の定義?」
突然語り始めたAに、アルが問いかける。
静かに彼女は頷いた。
『…この定義でいけば、人語を理解する合成獣を生み出すには人間を対価にする必要がある。言葉を話せるのは人間だけだから』
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キース - 更新頑張って下さい!とても面白くて大好きです! (2020年10月21日 21時) (レス) id: 7e1a44873b (このIDを非表示/違反報告)
アギト - そういえば、idって同じ数字にもなるんだね。 (2019年7月23日 10時) (レス) id: ef60878955 (このIDを非表示/違反報告)
アギト - 日向さんこんちゃーす。私もこの作品の続きが気になって確認してました。 (2019年7月23日 9時) (レス) id: ef60878955 (このIDを非表示/違反報告)
日向クロ - 続きが見たいです。心から!! (2019年6月21日 17時) (レス) id: 24db1a3b4c (このIDを非表示/違反報告)
日向クロ - これ取っても面白いですね。ときどき探してみています。ちなみに私も作品をいろいろ書いています。 (2019年6月16日 15時) (レス) id: 24db1a3b4c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:神菜 | 作成日時:2019年1月31日 19時