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「息を沢山吸え。まずはそこからだ」
「はっ、はい!」

まだ早朝だったようで、空はまだ桃色に染まっていた。
Aは出そうになったあくびを噛んで堪える。
今あくびしたら絶対殺される。

世界は手を腰にやり、仁王立ちをしている。
逆光で眩しい。

「1、2、3……吸え!」

世界の合図と同時に息を吸う。
すー………
Aが息を吸う音が庭に響いた。

「腹式呼吸!もっと腹に力入れろ!」
「はい!」

腹をバンバン叩かれても呼吸をやめてはいけない。
殺される…

すー………

「まだだ!!」
「はい!!」
「なってない!!腹筋あるか!?」
「あります!!」

そんな掛け合いをしながら腹式呼吸の練習をする。
ただ息するだけでこんな辛いとは…

「………うん。いいぞ」
「本当ですか!?!?!?」
「声がでかい
…腹式呼吸だし当たり前か
続けろ」
「はい!!!!!!!」

世界がAの腹に手を当てたまましゃがみこむ。
腹式呼吸のせいか、Aの声が山々によく響いた。

うーん、伊黒さんに絶対何か言われるな…

そんなことを考えながら呼吸に励むのだった。



「よし、Aも腹式呼吸ができるようになっている。空の呼吸を教えてもいいだろう」
「ひゃい!!!!!!!!!」
「静かに」
「はい」

刀を渡され、強く握る。
いよいよ呼吸を使えるんだ。
わくわくしながら目を閉じ、師範の声に身を任せる。



お前は明るい太陽だ。
広い宇宙だ。
青い空だ。
その光で鬼を照らすんだ…



耳飾りが揺れると同時に、目を開く。
その片目に刻まれた旭模様は伊達じゃない。

輝きを放ちながら、Aは刀を振り上げた。



『空の呼吸 壱ノ型 中天』



光が舞う。
雲が割れる。
太陽が顔を出す。
夜が明ける。
晴を告げる。


世界は飛び上がったAを見上げた。
Aは今は何にも興味を示さず、ただ舞っていた。
耳飾りが呼吸を嫌がるように揺れる。

「……完璧だ。さすがは晴継家…」

Aの一挙一動を食い入るように見る。
Aは今だけは眩い太陽だった。空だった。



「…………あれ?終わりました?」

刀を鞘に入れると、Aはいつものぽけっとした雰囲気に戻る。
世界はため息を吐いた。

_____________

【壱ノ型 中天】

大きく刀を振り上げて斬る技。
予備動作が大きいが、一撃はでかい。

第5話 最終選別→←第4話 空の呼吸



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作者名:いふらいと | 作成日時:2023年5月14日 19時

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