第2話 生きる意味 ページ5
桜太だけが見つからない。
死体の後処理を任された隠が言った。
「見つからない…って、どういうことですか?」
「言葉の通りだよ。君が持っている着物以外、痕跡や死体が無いんだ。」
隠は着物を指さしながら言う。
見つからない。
その言葉に、Aは希望を持ってしまった。
とても眩い光を見てしまった。
もしかしたら、桜太は生きているのかもしれない。
無惨とやらに連れ去られてしまったのかもしれない。
「おい、なにボーッとしてんだよ」
考えを巡らせていると、隠が呆れたように言う。
そうだ、お礼。
「……あっ、ありがとう、ございました」
「わかればいいんだよ、分かれば」
ふん、と悪態をついて隠はどこかへ消えてしまった。
その場に残されたAは空を見つめて立ち尽くしていた。
「来い、A」
しばらくして、世界がAに声をかける。
Aは振り向いて、世界のもとまで歩いていった。
「……弟だけが見つからなかったんだってな」
「…はい」
沈黙が流れる。
2人が歩く音だけが獣道に響いた。
もう少し歩けば人里に着くだろう。
「…もしかしたら、君の弟は鬼になっているのかもしれない。」
「いえ、桜太に限ってそれは無いです。絶対に」
世界がそう言うと、Aは間髪入れずに否定の言葉を掛ける。
世界は口を噤んだ。
信じたい。
桜太は鬼になんかなっていない。
もしかしたら、運が良くて生きながらえているのかもしれない。
Aはそう信じるしかなかった。
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作者名:いふらいと | 作成日時:2023年5月14日 19時