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「あら、Aくん…いきなり私の屋敷に来るだなんて、どうしたの?」
「師範と喧嘩しちゃって」

後日、Aは甘露寺邸を訪れていた。

伊黒さんはネチネチしているし、しのぶさんは今忙しいだろうし。
文通で暇だと言っていたので、蜜璃さんのところに行くことにした。

「あら、そうなの…
上がって!お茶菓子を出してくるわ」
「お邪魔します」

下駄を脱ぎ揃え、甘露寺邸に上がる。
久々だなあ…

ここには常に甘い匂いが漂っていて、さっきまでお菓子を食べていたのだということが分かる。

世界さんとは違って、綺麗な屋敷だ。

そんなことを考えながら客間に通される。

「座って座って!
このお菓子、おいしいのよ〜!私、これ大好きなの!」

蜜璃はお菓子を食べながら言う。
明るい方だなあ。

そんなことを考えながら、お菓子へ手を伸ばす。

「…ん、美味しいです」
「でしょ〜!?
…ふふ、実はこれ、伊黒さんが選んでくれたのよ!」

へ〜。
やっぱり、2人とも両思いなのかなあ。

胸に変な突っかかりを覚えながら、お菓子を食べた。

「…それで、喧嘩って、どんなこと?」
「…実は、喧嘩とかじゃなくて。
気まずくて、逃げてきただけなんです。」
「あら、そうなの?」

蜜璃さんは首を傾げて僕を見る。

「…実は、師範が引退するらしくて。
どうしていいのか分からなくて。気まずくて…」
「……そう。」

蜜璃は頷いて、目を閉じた。

こういう時、蜜璃さんは頼りになる。

「あのね、Aくん。
貴方の師範、世界ちゃんはあなたを信頼しているからこそ引退を決めたんじゃないかしら。」

蜜璃さんは僕の手を握った。
信頼…?

「師範が、僕を?」
「ええ。世界ちゃん、会う度にあなたのことを褒めていたのよ!
Aの動きにキレができてきた〜とか、あいつは天才だ〜とか。」

吃驚した。
師範が、僕を褒めていた?信頼していた?

ずっと、師範は僕に厳しくて信頼なんかしていないと思っていた。
そもそも、人に信頼されること自体わからない。
あの時家族がいなくなってから。

…信頼。

「世界ちゃんは、あなたを信じきっている。
絶対に空柱の席を空けないって。絶対に死なないって。」

蜜璃の真剣な眼差しが、Aを貫いた。

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作者名:いふらいと | 作成日時:2023年5月14日 19時

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