続 ページ16
この羽織は明日返せばいいだろうと世界に言われたのだが、Aは落ち着かなかった。
だって、柱ぞ!?
柱の羽織ぞ!?
「まあ、落ち着け。少しくらい返さなくてもいいだろ」
「それは師範が柱だから言えるわけで…
僕はただの一般隊士なんですよ?」
「だが空柱の継子であり継承者だ」
「うぐぇ…」
そうだ、僕は継承者になっていたのだった。
いつか師範が引退した時、僕は空柱代理として頑張らなくてはいけない。
はあ、プレッシャー…
さらにヘコみ、顔を手で覆う。
そんなAを世界はじっと見て、深呼吸をする。
「…A。」
「はい」
なんの話だろうか。
Aは何も考えずに返事をする。
「私は、今日を以て空柱を引退させてもらう」
沈黙が流れた。
Aは目を見開く。
「………は?」
自分の意志とは関係なく、勝手に言葉が漏れた。
世界の意思は揺るがないようで、目隠しの向こうにある瞳がまっすぐとAを見据えた。
「え、どういうことですか?
いきなり引退って…僕、まだ癸なのに」
Aが焦って問い詰める。
世界はそんなAを制し、口を開いた。
「お前は完全に空の呼吸を会得している。
柱の私より、だ。
戦いの力量は足りんが、呼吸の正確さは誰にも負けていない。
お前も弱いわけではないしな」
頭が追いつかない。
え?そんなに話さないでよ。わからないよ。
「せ、世界さ…」
「師範」
やっとのことで出した声。
やだよ、世界さんが引退とか。
「…師範、引退しないでください…」
「…ごめんな。」
部屋に、Aの嗚咽が響いたのだった。
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作者名:いふらいと | 作成日時:2023年5月14日 19時