4 ページ20
.
この日は、朝から雨が降っていた。
春先の雨風は花弁を散らし、窓ガラスに薄桃色が張り付いている。バチバチと窓に打ち付ける雨は頭痛を更に響かせ、俺はもう一度頭から布団をかぶった。
ヌナ、ヌナ。
弱っているとき、俺は必ずAヌナの名前を反芻して目をつむる。そうすると酷く安心するから。
でも今日は違った。自分でヌナとの関係に亀裂を入れてしまったから、落ち着くのとは反対に会いたくて会いたくて堪らなくなってしまった。
焦がれる気持ちに比例して身体の熱も上がるようで、俺は慌ててゼリーだけ口にして、薬を飲んだ。その後は何もする気が起きなくて、ただベッドで一日中目をつむることしかしなかった。というか、できなかった。
今すぐ俺の元で優しく頭を撫でながら、「ソンチャン、ゆっくり寝なくちゃ」とか、「汗かいちゃてるよ」とか、「お粥作ったよ、これ食べたら薬飲んでね」って囁く化学製品の味がする唇が恋しくてもどかしい。
記憶がしゅるしゅると何かに引き出されるようにヌナのことを想い返していって、最終的には俺なんかよりも幾つも小さな手の平の体温が髪から伝わってくるあの感覚を思い出してしまった。
俺は枕に顔を埋めながら小さく唸った。ヌナ、会いたい。
やっと体調が戻ったのは水曜日だった。なんだかんだ回復するのに5日程度かかってしまい、仲のいい友人たちもさすがに心配してくれたらしく大学に行けば「死んでなくてよかった」と休んだ分の講義ノートを見せてくれた。
「ソンチャナ〜今日サークル来る〜？」
友人たちと食堂で話していると、1人の女友達が俺に話しかけてきた。友だちと言っても俺からしたら顔見知りって感じだけど、向こうは俺のことを友人だと思っているらしくやけに馴れ馴れしいのが少し苦手だ。
「今日は行かないかな。」
「え〜そうなんだ、みんな来て欲しいって言ってるのに。バイトとか？」
「うん、そんな感じ」
「なら仕方ないね〜。彼女とデートかと思ったけどそうじゃないんだ笑」
眉を少しあげてこちらを伺うように発言する彼女は俺に何を求めているのだろうか。人を適当に煽って何か知りたいみたいだけど俺はヌナとの約束をどんなに破りたいと思っても、思うだけで実行したことはない。
俺たちの関係を俺たちだけで完結させる守秘義務が付きまとっていることを、俺はよくわかっているから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 713人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「NCT」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
マリン(プロフ) - ころころまんさん» ジェミンを応援したくなるというコメント本当に嬉しいです。最後まで主人公の味方になろうとする彼を書きたかったので……！コメントありがとうございました！ (2021年3月21日 12時) (
レス) id: 2096d89c8f (このIDを非表示/違反報告)
ころころまん(プロフ) - ジェミンの話が一番面白かったです。ドキドキするしジェミンを応援したくなるし、ジェミンっていいやつなんだなぁと私は感じました。また更新お待ちしています。こだわりのある感じがまた最高です。 (2021年3月21日 4時) (レス) id: ddd6b54eb6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：マリン | 作成日時：2021年2月15日 1時
