8 ページ8
その日は結局伊野尾くんの背中に花を見ることは出来なかった。
どうしてなんだろう。花が見えるようになってから一度もそんなことはなかったのに。きっかけはなんだったのかずっと考えていたけれど、なかなか浮かばない。
紫がかったきれいな花。彼が嬉しそうにすると花も喜ぶようにほころんだ。芳しい香りとともに。
あの花が表しているのは恋心だと分かったのに、気付いたのに、見えなくなるなんて。それは伊野尾くんが俺のことを好きではなくなったということなのか？
そう思ったらどうにも胸が痛んだ。もしかするとあの日だけかも知れないし、また会えた時に確認してみよう。
今日の仕事は伊野尾くんとそれから薮くんと一緒だったはずだ。少し早めに家を出るとマネジャーに連絡をしたらちょうど薮くんを乗せているのでそのまま迎えに行きますねと返事をもらったので用意を手早く済ませて待つ。
「おはようっす」
「おはよー」
「おはようございます」
薮くんとマネジャーに挨拶をすると返事が返ってくる。
「なに。なんか用あったん？」
「いや、ちょい伊野尾くんに確かめたいことあって」
「伊野尾に？」
「伊野尾さんは別のマネジャーが迎えに行ってますけど別で大丈夫でした？」
「いや、いいんだ。会えば済むことだから」
「ならいいんですけど」
マネジャーはあまり気にしていない様子で運転に集中し始める。けれど薮くんはさっきから俺のことをじっと見ている。まるで観察でもしているみたいに。
「雄也、なんかあった？」
「なんで？」
「雄也が遅くなることはあんまりないけど、わざわざ早く行くってのも珍しいなと思って。しかも伊野尾のこと確かめたいってさ、電話とかじゃダメなやつ？」
「うん……。ちょっと会ってから確かめたくて」
「だから何を確かめるんだよ」
何とも説明がし辛くて、誤魔化すように話すから気になって仕方ないらしい。そりゃそうだよな。俺だってこんな風に言われたらめちゃくちゃ気になるもんな。
「別に大したことないんだけどさ」
「ふーん。なんか分かんないけど解決するといいな」
ふにゃっと笑うその笑顔を見ていたら、何だか本当に解決するような気持ちになって来るのはさすがだと思う。割と強めに肩を叩かれてちょい痛いけど気合いを入れてもらったようで元気が出た。まもなく現場に着く。今日は3人の撮影とインタビュー。伊野尾くんに会えるのは嬉しい。だけど少し怖い。
花は咲いてくれるんだろうか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 141人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ruki(プロフ) - chocoさん» chocoさん、コメントありがとうございます！そんな風に言って頂けてとっても嬉しいです☺️本当にお花が見えたら2人ともずっときれいな花を咲かせて、周りに飛ばしてるかもしれません笑 まだもう少し続くので良かったらお付き合いくださいませ🥰 (7月6日 18時) (
レス) id: aad90071ba (このIDを非表示/違反報告)
choco(プロフ) - このお話めちゃくちゃ好きです🫶�睫擇気鵑頬�められてブワッて花が咲く所で伊野尾さんがどんな顔するのか目に浮かんじゃいました！その後お花萎えちゃうのに何でもない顔する所も。これからたかいのを見たら見えないお花が見えてきそうです。 (7月6日 5時) (レス) id: a8ac698638 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ruki | 作成日時：2023年5月15日 12時
