切り札 ページ5
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稲森の新必殺技がイタリアゴールに迫る中、ガブリエラのサポーターが自壊する勢いで作動。襲いかかった苦痛に彼女は顔を歪めた。
『おい！止めやがれ！』
『このままじゃ、ガブリエラが！』
ジャスティノがウラジミールのえりを掴み上げる。迫るガブリエラの破綻に焦る仲間たちだが、ウラジミールは睨みつけるだけで何も言わない。
｢真実の大口！｣
ついに、ガブリエラが迎え撃つ。ゴールを死守したいという彼女の気持ちに応えるかのごとく、サポーターからは激しい火花が散り、血管が浮きあがる。
｢ガブリエラ！やめるんだ！｣
ペトロニオが叫ぶ。しかしガブリエラは退かない。目を見開き、渾身の力で歯を食いしばってシュートに耐えている。筋肉の圧に耐えられず、ユニフォームの袖がはじけ飛んだ。
＜止めたー！！＞
実況者の声が響き渡る。しかしガブリエラは顔を上げない。ボールを支えていた左手がだらりと下がる。恐れていた事態が、起きてしまったのだ。そう悟った時には、もう何もかもが終わった後である。
｢ガブリエラ！｣
｢ガブリエラーー！！｣
観客はガブリエラの奮闘に歓声を上げるが、選手たちは敵味方を問わず、限界を超えた彼女を案じて駆け寄る。直立のまま気絶していたガブリエラの姿を目の当たりにしたAは口元を覆うように手を当てた。
｢ひどい……｣
駆けつけた救護班が、ガブリエラを担架で運んでいく。意に反してガブリエラにとどめを刺すかっこうとなってしまった明日人は拳を握って悔しがる。
｢なんだよ、これ。なんなんだよこれは！」
｢落ち着け、明日人くん｣
感情が高ぶり、荒れる明日人を背後から野坂がいさめる。しかし、明日人の握りこぶしは解けない。それどころか、勢いよく振り返って関係の無い野坂に向かって怒鳴りつける。
「落ち着いてなんかいられない！このままじゃ、みんな二度とサッカーができなくなる！」
イタリア選手に手を翳しながら叫ぶ明日人。その声は無論、ペトロニオ達にも届いており不安を煽った。「でも、どうすればいいんだ」万作が困り果てた顔で問えば明日人は俯き、次いで、まなじりを決した。
｢一気に試合を終わらせるしかない。" グリッドオメガ " だ｣
｢グリッドオメガですって！？｣
癇癪玉を噛み砕いたような衝撃がその場にいた者の全身を貫く。中でも、Aが強いショックを受けたのは明らかだ。唇は開いたまま硬直し、眼を盛んに瞬かかせて、喜怒哀楽のどれにも属さない表情を見せた。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年10月15日 21時
