背くということ ページ28
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試合が終わって、着替えもせずにわざわざ待ち伏せしていたフロイを気遣って、親友同士の積もる話もあるだろうと一星の背中を押したAは遠くから二人の様子を眺めていた。
彼らの後ろにはチームメイトであるユーリとマリク、ルースの姿も見受けらる。
｢あ、Aだ！｣
気づいたマリクが声を上げると、Aに向かって大きく手を振って駆け寄ってくる。そのあとを続くように、ユーリとルースも彼女の元へと訪れた。
｢久しぶり、ユーリくんとルースくんも｣
｢あぁ｣
｢君も一星と一緒に来ていたんだな｣
｢まあ、そんなところ」
片手を上げて話題を振ってくれるルースとは違って、ユーリはそんなAから横目を逸らして短く返事をするだけで、素っ気ない。ロシア戦で見せた卑劣な行為の数々の負い目を今になって感じているのだろう。
｢それよりも、決勝進出おめでとう」
｢A達もイタリア戦おめでとう！あのイリーナ様が率いる精鋭チームに勝つなんて思わなかった！｣
｢うん……」
日本があの頃に比べて強くなったことを改めて実感した、と語るマリク。純粋な瞳を輝かせて楽しそうに以前の試合を話すマリクとは裏腹に、Aの顔には雲がかかったような影が差し、憂鬱そうだ。
｢どうしたの？｣
｢え……？」
｢なんだかA、勝ったのに嬉しくないみたい」
マリクも決して鈍感なわけではない。子供ながらに見るべき視点はしっかりと見ている。Aの顔色が優れていないことなど既にお見通しのようだ。
「うーん」…と、苦虫を髪潰したような表情で返答に困っていると、見兼ねたユーリが口を挟む。
｢後味の悪い結果になったことを悔やんでいるのか？｣
図星だったAは、静かに首を振る。
｢オリオンが本気で日本を潰しに来てることは、あの試合でハッキリ分かった。だから怖いのよ……きっとロシア戦でもなにか仕掛けてくるかもしれない｣
｢いや、それはない」
胸が詰まるような思いでぽつり、ぽつりと話すAの言葉を遮るような形でルースが否定した。その意味が何を指しているのかが分からず、彼女は首を捻る。
｢でも、ロシアはオリオンの傘下に」
｢それはあくまでも、俺たちがオリオンの意思を尊重していた場合の話だ。……だが、今は違う｣
一歩前に出たユーリがきっぱりと言い切った。その意味をようやく理解したAはハッとして目を見開く。瑠璃色の瞳が夕暮れの光に照らされて、煌めく海のように輝いていた。
(それって……)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年10月15日 21時
