雪辱戦 ページ27
❀
｢一週間後はいよいよロシア対日本戦。私たちにとっては雪辱戦とも言える試合だなわけだから、今まで以上に気を引き締めないといけないわね｣
はぐれないために、と言われて繋がれた手は汗ばんでいるが温かい。それがどちらのものなのかAには分からなかったが、真面目の話の最中に茶化すような発言をするつもりもなかった。
｢はい。それに、オリオンがこのまま指を咥えて日本とロシアの試合を見ていたとは思えません。万が一に備えて、俺達も別の計画を練らないといけませんね｣
それよりも、問題はまだまだ山積みだ。恐らく次の試合でオリオン財団との決着もつくだろう。
｢うーん……仕方ないとはいえ、決勝戦はクリーンな試合ができると思って期待してたのにな、残念だわ｣
期待していた分、やはりそこにはオリオンが介入してくるわけで……Aは残念そうに肩を落とした。
｢でも、あの時とはロシアの状況も変わっています｣
｢どういうこと？｣
意味深な言葉に、Aは顔を上げて首を傾げる。
｢あの時と違って今のフロイには、マリクやルースのような心強い仲間がたくさんいます。そしてオリオンを倒す目標もできた。……俺は、以前のようにロシアチーム全員がオリオンの指示に従うとは思えません｣
今の彼は一人じゃない。そう考えると、気持ちも少しは楽なのだろうか。｢俺はそう信じてます｣真っ直ぐな瞳で前を見つめる一星の横顔を一瞥したAは、目を伏せると｢そうだといいわね｣柔らかく微笑んだ。
｢因みに光くん｣
｢はい？｣
｢もうそろそろ手、離しても大丈夫だと思うけど｣
Aの言葉に、思考回路が停止したようにピシりと固まる一星。二人の間に流れる暫しの沈黙。言語中枢に追いつかないのか、一星はゆっくり小首を傾けるとそのまま視線を繋がれた手と手に落とした。
＿＿＿そして
｢あ.......！す、すすす……すみません！！｣
冷めかけていた熱が再び上気する。目を渦巻きのように回して、口をあわあわとさせた一星が、慌てて繋いでいた手を離した刹那のこと。
『光ーー！！』
｢フロイ？｣
｢噂をすればなんとやら、ね｣
人混みを抜けて、会場を出た先には何故かユニフォーム姿のフロイがいた。待ち伏せをしていたのか、二人の存在に気づくと嬉しそうに手を振っている。
(せっかくだし話してきたら？)
(えっ、いいんですか？)
(親友との再会なんだもの。積もる話もあるでしょ？)
(ありがとうございます……！)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年10月15日 21時
