善悪 ページ25
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｢見て、光くん！フロイ達が入場してきたわよ｣
突然Aが立ち上がり、フェンスに凭れたまま下を指す。つられて一星も腰を上げて傍に近づく。両チームの選手がフィールドに向かって歩いていく姿が見受けられた。
｢いよいよ始まりますね。ロシア対アルゼンチン戦｣
｢ねっ、手振ったら気づくかな？｣
｢いくらなんでもそんなわけ……｣
ばちっ……そんな音がよく似合う。
一星が視線をちょうど下に向けた直後のことだ。入場中だったフロイが振り返り目がかち合った。たまたまなのか、はたまた狙ったのかは定かでないが、フロイの目が僅かに輝いたのをAは見逃さなかった。
『光ーー！！来てくれたんだね！！嬉しいよ！！』
｢光くんの名前呼んでるけど｣
｢き、気のせいですよ｣
注目を浴びて恥ずかしいのか、一星はするりと横目を逸らす。その口元は僅かに引き攣っている。あまりにもフロイが一星に気を取られているものだから、呆れたユーリが後ろから襟を掴んで引きずっていた。
｢ユーリくんも苦労するわね｣
｢ったく、フロイのやつ…｣
引きずられるフロイの姿に苦笑を零したAを置いて、首を横に振った一星が席に座り直す。親友であるが故に、恥ずかしい気持ちでいっぱいなのだろう。
｢それにしても意外でした｣
｢何が？｣
突然話題を転じた一星に、Aは疑問符を浮かべて踵を翻す。その顔には話の筋が読めないと書かれており、眉間は当惑により顰められている。
｢Aさんが悪いことをしたりするのがなんというか、意外で……てっきり俺は、曲がったことが嫌いな人なんだとばかり思ってました｣
｢幻滅した？｣
言いにくそうに目を泳がせる一星にそう問えば、首を横に振った返事がかえってくる。｢ならよかった｣と、安堵した様子を見せてAが食べ終わったアイスの包み紙を折りたたむ。
｢私、光くんが思ってるほど優しい人間じゃないよ。言葉では曲がったことが嫌いって言っても、心のどこかでは否定してる自分がいる。今だって、ロシアチームが負けてくれないかな……なんて思ってるから｣
折りたたんだ紙を開いたり閉じたりを繰り返すように弄りながら、ぽつぽつと話したA。｢ね？性格悪いでしょ？｣眉を八の字に寄せて困ったようにはにかんだAに、一星は返す言葉が見つからなかった。
(まあ、轟会長のご機嫌取りをしただけなんだけど)
(えっ…。不正して手に入れたんじゃないんですか!?)
(光くん、それはさすがに犯 罪だから)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年10月15日 21時
