憤懣 ページ46
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憩いの広場には似つかわしくない乾いた音が、茜色の空の下で響き渡る。その音を放ったAは大きく肩を上下させて、呼吸を乱していた。透き通る美しい目の奥底に沈むのは、怒りをはらんで燃える瞳。
｢いい加減にして!!なんなのよさっきから！｣
全身怒りの塊で、耐え切れず爆発したように叫ぶ。
目頭が熱くなり、涙ぐみそうになりながらも必死に耐えようと唇を噛みしめた。そして、呆然とした顔で赤くなった頬に手を添えるヒロトを睨めつける。
｢あんたに……ッあんたなんかに私の気持ちなんて分かるわけないでしょ!?知った風な口聞かないで!! ｣
怒りの心は口を押し開けて、笛のような息とともに外にあふれる。憤懣を感じられずにはいられなかった。木々に止まるカラス達がその声に驚いて、騒がしい鳴き声をたてながら四方八方へと飛んでいく。
｢両方から好意を持たれてる？保険？そんなこと一度も思ったことない！！心に余裕がある？どうしてそんなことが簡単に言えるのよ！私の気持ちなんて、一ミリも知らないあんたが！｣
肩肘をつき、胸板をもう片方の手で押し返そうとする反抗の意思を見せながら、Aは噛み付くような口調で勢いのままに声を荒らげて訴えた。その目には、堪えていた涙が今にも溢れようとしている。
｢あんたがずっと何にイライラしてるのかは知らないし、知ったこっちゃないけどね……そのイライラを関係のない私にぶつけるのはやめて！｣
両肩を掴み力任せに押しながら、｢退いて!!｣と叫べば、弾かれるようにヒロトの体は離れていく。頭を俯かせるヒロトの顔色は、未だ窺えない。しかしAと同じように震えているのは、見て取れた。
｢そういうの、はっきり言って一番迷わ＿＿＿｣
｢ごちゃごちゃうるせぇな！！黙ってろ！！｣
起き上がったAが放った言葉に被せるような怒声。声変わりをしてまもない少年の低くドスの利いた声が、Aの鼓膜を刺激した。突然の不意打ちに、体が冷水を浴びたように竦んでしまう。
｢なんなのよその言い方！大体、あんたが先に｣
｢はたから見たらお前のやり方がそんな風にしか見えないから言ってんだろ！？俺以外の他のヤツにばっか、いい顔しやがって……ッ！｣
胸ぐらを勢いよく掴まれて、上へと持ち上げられる。首元がしまって苦しいだとか、泣きたくなるくらい辛いだとかそんな感情はヒロトの顔を見た瞬間に、一瞬にしてAの心から吹き飛んだ。
(なんで、あんたがそんなに辛そうな顔するのよ)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
