可愛い提案 ページ35
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｢言ったそばから勝手に行動するんじゃねーよ｣
声をかけるよりも先に、灰崎が彼女の隣に並び立った。完全に出遅れてしまったヒロトは、その光景を後ろから眺めることしかできないでいる。
｢ごめん……でもそれよりこれ見て？｣
｢あ？｣
ショーウィンドウの先を指さすAに目線を合わせるように、灰崎は腰を落として中を覗く。二人の間にはパーソナルスペースというものが存在しないのか、その距離は異常に近い。
｢……(俺だけのけもんかよ)｣
嫌でも恋人のようにも見えてしまう光景に、見せつけられている気がしたヒロトは舌を鳴らして、これ以上は見ていられないと、顔を背けて天を仰ぐ。
｢これは…！｣
｢すごいでしょ、ここ｣
そんなこととは露知らず、Aと灰崎はショーウィンドウの中を見つめていた。彼女が指をさしていた先に広がったその光景は、ケースの辺りが一面に覆われたクマぞうのぬいぐるみ達の姿だった。
｢ロシア限定の、クマぞう専門グッズ店！ここにしかないクマぞうのレアグッズはもちろん、過去に販売した物やら当時は品薄状態だったグッズが揃ってる、クマぞう好きには堪らないお店らしいの！｣
オススメスポットとしてロシア観光のパンフレットにも書かれるほど、人気を博しているクマぞう。日本のみならず、海外でも大活躍中らしい。
Aが口コミを読み上げる一方で、灰崎は声に出さないものの、その目は僅かながらに輝かせていた。
｢どうかな？灰崎くん。今日はせっかくのオフだし、これからの予定も特に決まってないわけだから、おつかいは後回しにして、少し寄り道していかない？｣
パンフレットを閉じて、ウエストポーチにしまったAは、すっかりショーウィンドウの中にあるクマぞうに釘付けとなった灰崎に、提案を持ちかける。
はっ。とした顔で我に返った灰崎は、微笑むAを見下ろすと照れくさそうに目を逸らして口を開く。
｢お前がそこまで言うなら、しかたねぇから寄り道してやるよ。まあ別に、俺はクマぞうになんて一ミリも興味無ぇし、買うつもりも全然全くもってないからな！｣
｢(その割には買う気満々なのよね)｣
子供のような灰崎の姿に、思わず笑みが零れた。
今更クマぞう好きを無理に隠さなくとも、日本代表の面々には知られている。それでも灰崎は、頑なに自分がクマぞう好きであることを認めない。
現に今も、口ではそう否定していても、早く中に入りたくて仕方がないという顔をしていた。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
