サラブレッド ページ33
❀
｢お前ら！少しは常識ってもんを学びやがれ！｣
大声を張り上げた灰崎が、すっかり萎縮したように肩をすぼめたAと悪びれた様子を見せないヒロトを交互に指しながら、周囲が驚くほど声高に叱りつけた。車内でかいた恥を味あわせるかのように。
｢周りに迷惑ばっかかけてんじゃねーよ、俺より歳上のくせしてそんなこともわかんねぇのかよ！一緒にいるこっちの身にもなれってんだ！｣
そして息をつく間もなく台詞を長々と言い終えると灰崎は、｢ったく…恥ずかしいったらないぜ｣指していた指を下ろし、呆れた顔で最後にそう言った。
｢今の灰崎くんの声もかなり大きい、かも｣
｢あぁ？｣
｢……ごめん｣
｢分かればいいんだよ｣
普段のAならば言い返していたが、今は立場上そうもいかない。灰崎からのガンを受けると、Aは言葉を噤んで首を静かに振った。
｢はっ。怒られてやんの｣
ほっ…と胸をなで下ろして安堵の息を吐くAに、鎮まっていた怒りのボルテージを底上げするような煽り文句を放つヒロト。怒筋が額に浮び上がる。
｢あんたのせいでもあるんだからねーー!?｣
片耳を抓り、引っ張り下げたAは少し背伸びをすると、その耳に向かって大きな声を張り上げる。
その声が余程耳の奥に響いたのか、相当堪えた顔でヒロトは、暫く渦巻きのように目を回していた。
＿＿今もなお息づく美しい歴史群。
当時の建物が古くから残る大聖堂や、古風な街並みを再現した世界遺産大国、カザニ。
ロシアでも人口の多い都市とも言われており、タタールスタン共和国の首都である。
｢それにしても日差し強すぎだろ｣
改札口を抜け、地下鉄から地上へ続く階段を上がったヒロトらを待ち受けていたのは眩しい日差し。ロシアとて、日中の温度は日本とあまり変わらない。
｢まあ、カザニはロシアの中でも特に暖かい場所らしいから仕方ないんじゃない？……って｣
ぐるりと街の風景を見回したAが、ヒロトの手元を凝視していた。｢あ？んだよ｣その視線に気づいたヒロトが、自前のサングラスを手に問いかける。
｢あんた、サングラスなんてかけるのね｣
｢まあな｣
自慢気に見下ろした後、ケースから取り出したサングラスをかけるヒロト。白のTシャツの上から羽織る黄色いの上着と見事にマッチし、普段はあまり感じられないセレブな雰囲気を漂わせていた。
(うっ…上級セレブ感が否めない)
(はっ！当然だろ。なんてったって俺はゴッ＿＿)
(はいはいはいはい)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
