恥 ページ32
❀
｢…っお前ら、来い！｣
はた迷惑な二人に、いよいよ我慢の限界を超えた灰崎は、席から立ち上がると二人の手を掴んで無理やり立ち上がらせた。そして、乗客達から向けられる白い目を押し退けるように、扉の前へと移動する。
｢ねえ、灰崎くん。隣町はあと二本も先よ？｣
｢そうだぜ。もう少し座っててもいいだろ｣
｢ダメだ。ここで降りるぞ｣
『はぁ？』
Aとヒロトの声が、タイミングよく重なる。アナウンスが流れ、駅のホームに電車が到着すると、灰崎は二人を連れて真っ先に車内から降りた。
雪崩のように押し寄せる人の波をかき分けて、改札口付近にある憩いの場でようやく立ち止まる。掴まれていた手も、いつのもにか解放された。
｢ねえ、灰崎くん怒ってない？｣
｢あ？｣
頭の後ろで手を組み、眠たげに欠伸をするヒロトに向かってAは内緒話をするように話しかけた。欠伸を終えたヒロトは面倒くさそうな顔で視線を、灰崎の後ろ姿へと移動させる。
｢別に普通だろ｣
暫くしてからヒロトは無関心、という目で答えた。
｢ちゃんと見てよ。絶対怒ってるわ｣
だが、その答え方に納得しないAがヒロトの後ろに回り、背中を押してよく見るように伝える。
｢うるせぇな、灰崎なんかほっときゃいいだろ｣
誰が好き好んで見つめなければならないのだ。ヒロトは鬱陶しそうに肩を回し、背中に置かれたAの手を乱暴に振り払った。
｢そうもいかないわよ。さっきから無言のままだし｣
｢つーか元々口数少ないだろ｣
｢まあ…それはそうだけど｣
それを言われてしまえば、反論の余地はない。やはり気のせいなのだろうか……と暫く灰崎の背中を眺めていたAは、突然ピンと閃いた。
何か思い当たるようなことがあったのだろう。
｢きっとあんたの声が大きかったのよ｣
｢はあ？｣
｢謝ってきたら？何事も早い方がいいって言うわ｣
自分のことを棚に上げて、原因は全てヒロトにあると決めつけたAは腕を組んで言い諭す。しかしヒロトは納得がいかないと言わんばかりに顔を顰めて、口を開く。
｢あれはどう見てもお前が原因だろ｣
｢ヒロトがちょっかいかけてきたのが原因よ｣
｢なっ…俺のせいかよ！｣
｢あんたのせい以外誰がいるってのよ！｣
徐々に声のボリュームが上がっていき、人目を引き始める。改札ホームで再び、二人の諍いが勃発しようとした刹那。
今まで沈黙し、背中を向けていた灰崎が｢うるせぇよ！｣とがなり声を上げて振り返る。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 132人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
