泥だらけ ページ22
❀
＿＿厳しい特訓が終えた、その日の晩。
あれから練習に練習を重ねたが、ラストリゾートの完成には未だ到達しなかった明日人達。彼らがシャワーを浴びて汗を流し、食堂へ続く廊下を歩いていた時のこと。
大谷つくしのものと思われる耳を劈くような悲鳴が、食堂から彼らが歩く廊下にまで響き渡った。
｢今のって、マネージャーか？｣
｢まさか何かあったんじゃ…｣
｢行ってみよう！｣
灰崎、明日人、野坂の三人は相槌を打ち合うと、急いで悲鳴の聞こえた食堂へと駆け出していく。
食堂に近づくに連れて、ザワつくような仲間たちの声が聞こえる。中途半端に開けられた扉からは僅かな電気の光が漏れ、廊下を薄明るく照らしていた。
｢つくしさん！！どうかし…｣
息を整える間もなく、勢いのままに扉を片手で乱暴に押し開けた明日人は、目の前に飛び込んだその光景に思わず言葉を失った。後からやってきた野坂、灰崎もまた、息で肩を弾ませながら目を見開く。
｢ど、どうしたんだよA！｣
穴のあくような瞳で、頭からつま先まで行ったり来たりを繰り返し、マジマジと見つめる明日人が問いかけると、名を呼ばれた張本人であるAは｢ちょっと、ね｣複雑そうな顔で苦笑した。
｢何をどうすればそんな泥だらけになるんだよ｣
誰もがその姿に言葉を失う中、ヒロトが皆の気持ちを代弁して問い訊ねる。しかしAは何も答えず、無愛想にもそっぽを向いた。
｢……｣
皆が驚くべきその点。それは、彼女の身なりや姿にあった。服には汚れた跡がいくつもあり、綺麗な髪にはツヤがなく、ボサボサ。頬や腕、足の至る所に擦り傷のようなものがつけられていたのだ。
｢おい｣
｢……｣
無視をされたことが気に食わず、腹を立たせたヒロトな額には、微かに怒筋が浮かび上がっている。
｢ブスな顔がますますブスになるぜ？｣
｢……｣
｢シカトかよ。おい、聞いてんだろブス｣
｢……｣
｢なんか言えよこのブ……ッ！？｣
湿ったタオルが、ヒロトの顔にクリーンヒット。
明日人の肩に掛けられていたタオルを一瞬のうちに掴んで、Aが投げつけたのだ。不意打ちを食らったヒロトはそのまま倒れ、基山に呆れられている。
｢あのあま…マジで許さねぇ｣
｢ヒロト、今のはお前が悪い｣
日本にはこんな言葉がある、仏の顔も三度まで。
今の状況を永世の緑川が見れば、そんな風に例えるだろう。何度も同じことをしつこく言われれば、さすがの彼女も堪忍袋の緒が切れると言うものだ。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
