幕開け ページ3
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一星曰く、イナズマジャパンの戦術は、無策のブラジルに潰されている。野坂にとっても今のブラジルは、アレスの天秤で測ることのできなかった雷門と同じように、計り知れない力を持つ強敵だ。
｢日本にとっては強敵…ってことよね｣
｢あぁ。苦しい戦いになることに間違いはない｣
｢そうよね…もう、彼らを縛る足枷はないわけだし｣
しんみりとした空気の中、Aが静かに呟くと、その言葉を拾った野坂が間髪入れずに答える。
今の日本には、新たな作戦を立てている時間もなければ余裕も残ってはいない。どうするべきなのかと、誰もがその場で頭を悩ませていた、その時。
｢だったら計算なんかやめて、全力を出して、思いっきり戦おうよ！｣
明日人が、空気をぶち壊すように放った。
策がないならば無理に考えず、全力を出せばいいのだ。明日人らしい単調な考えではあるが、今ではそれさえも、選手達を突き動かすキッカケに繋がる。
｢たまには、作戦なしで戦ってみるのもありかもね｣
｢そうですね！Aさんの言う通りです！｣
への字に曲がっていた口元も、Aが賛成の意を示せば、徐々に綻んで、微笑が日にかがやいている出水のように湧き上がる。一星は賛同するように、握り拳を胸元に寄せて喜ばしそうに笑った。
｢おう！おもしれえじゃねえか｣
それに剛陣も続く。ブラジルの気持ちのいいサッカーでテンションがあがったのか、明日人の提案に次々と乗っかる姿勢を見せるイナズマジャパン。
皆の気持ちが一つに重なった一体感を肌で実感した円堂は、明るい笑顔で決めゼリフを言い放つ。
「さあ、みんな！サッカーやろうぜ！」
『おおっ!!』
円堂の力強い声がフィールド全体に轟く。それに合わせるように放った選手達の鬨の声は、潮をつくって電気磁力のような速度で会場をめぐり、颶風(ぐふう)のような振幅で浪打った。
ホイッスルが会場を穿つように鳴り響き、再開早々、明日人がいつもの真っ直ぐなプレースタイルでアルトゥールからボールを奪った。すぐ様追いかける姿勢を見せたアルトゥールが言う。
｢どうやらオレたちの本気に応えてくれるようだ」
｢だったら負けられねえな！｣
それに合わせて走り出したミゲルもまた、喜びを額に湛え目を輝かせていた。卑怯な手を使わずに戦う、どちらに軍配が上がっても恨みっこなしの、正々堂々とした本物の真剣勝負だ。
「さあ、始めよう、サッカーを！」
＿＿今ここに、本当の試合の幕開けを宣言した。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
