変装 ページ10
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FFI世界大会準々決勝は、ダンスのリズムを武器としたブラジルを降した日本が、辛くも勝利を飾り幕を閉じた。
様々なトラブルが起きながらも、最後はお互い気持ちよく戦うことができて、両チームの選手達は満足そうな表情を見せていた。
｢はぁ…疲れた｣
汗に塗れた体がシャツにベタついて気持ち悪い。
ベンチで寛ぎ、勝利の余韻に浸かる仲間を置いて、Aは先に汗を洗い流すため、会場内に設備されているシャワールームへと続く廊下を歩いていた。
｢早く洗い流してサッパリしたい……｣
周囲の目がないのをいいことに、肩にかけたタオルで顔の汗を拭って、引っ付いたシャツの胸元を掴んでは中に風を送るように扇ぐ。 静寂な廊下には、彼女の靴音と独り言だけが響いている。
｢A｣
｢…！｣
突然、どこからともなく名を呼ぶ声が聞こえた。
いるはずのない場所から聞こえたその声に、思わず足を止めて辺りを見回す。すると、彼女が向かう先の前方にある曲がり角の壁から、人影のようなものがゆらゆらと揺れるのが見えた。
｢……？｣
壁が邪魔をして、死角を作っているためその人影が誰なのかは彼女の位置からでは判別できない。
｢A、久しぶり｣
しかし、何やらコソコソと話し合う声のようなものが聞こえると、暫くしてから、人影のあった壁からひょっこりと、見慣れた髪色の少年が顔を出した。
｢ま、マリクくん!?｣
やや小柄な体型で、センターを分けたオレンジ色のショートヘア。その人影の正体は、ロシアチームのマリク・クアベルだった。
Aが名を叫び、彼に気を取られていると、また後ろから新たなる人物が現れる。
｢えっと……あなたは？｣
左右に外ハネした金髪、目つきも角ばった形状で目の色はグレーがかった水色の少年。無彩色のスタジャンを見事に着こなしている彼は、マリクよりも幾分背が高い。
｢はじめまして、じゃないけど｣
｢え？｣
少年の意味のありげな言葉に、Aは首を傾げる。身に覚えのない彼に頭を悩ませていると、少年はどこからともなくバンダナを取り出し、目を覆うようにして髪全体を上へと持ち上げた。
｢ロシア戦ではどうも｣
｢あ、あなたは……アース・イナーム！｣
見覚えのあるその姿に、驚愕の声を上げる。
金髪で髪を下ろしているため、気づかなかった。髪色は違えど、そのスタイルはロシア戦で日本を混乱させ、苦しめたうちの一人、明日人を装った少年。
その姿は、彼女の記憶にも新しかった。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
