茜色 ページ44
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胸の中にある正体不明な不快な黒い感情が心を侵食し、蝕んでいく。夕焼けが広場の公園に差し込み、二人の顔を茜色に照らす。静寂としたこの広場のベンチで、無言の睨み合いが続いていた。
｢(何やってんだよ俺は。バカか？こんな質問したら、コイツが困るのは目に見えてるだろ)｣
頭では分かっていても、ヒロトの体は意思に反して動く。もう我慢の限界だ、と。心が叫んでいるようだった。股の間に片膝を滑り込ませ、逃げられないように手をつき、冷徹な眼差しでAを見下ろす。
｢(コイツが一星のことを気に掛けるのは今に始まったことじゃねえだろ。それなのに、なんで今更)｣
口を開けば衝突ばかり。素直な気持ちを言えず、逆に傷つけてしまう自分に嫌気がさしていたのかもしれない。それ故に、自分には見せない笑顔を向けられる一星や、灰崎のことを僻んでいたのだ。
だが、今更引けるわけがない……。押し倒してまで問いかけてしまった今、やることは一つだ。ヒロトは矛盾する己の気持ちを割り切った。そして、どうにでもなれという意味を込めて自嘲気味に笑う。
｢(やっぱり我慢なんて慣れないこと、するもんじゃねぇな。これでAに嫌われても、それこそ自業自得だ。誰も、誰一人責めることなんてできねぇよ)｣
そんな考えが渦巻く一方で、頭の中では酷く冷静な自分もいた。目の前でAを押し倒している自分自身を客観的に見ているような、不思議な感覚。
｢……はやく答えろよ｣
口から出たその声は、自分でも驚くほどに普段の何トーンも低いドスの利いた声だった。答えないAに、尋問するような勢いで何度もしつこく問いかけるとその顔は徐々に顰められていく。
｢そんなこと聞いて、あんたは何が言いたいの？｣
｢(そんなの、俺が知りたいくらいだ)｣
質問に答えるのではなく、質問を質問で返してきた。彼女の目に一切の怯みはない。平然を装いながら、ヒロトは心の中で自問自答を繰り返す。
｢(俺はそれを聞いて、どうしたいんだ？コイツに、俺は何を求めてる？振り向いて欲しいのか？少しでもAに、俺を意識してもらいたいのか？)｣
追い詰められているのは、はたしてどちらなのだろう。……押し倒され、不利な立場に立ってもなお、歯向かうような強い姿勢を崩さなかった。
｢アイツらみたいに、一人の男として……)｣
反抗する彼女の目が、気に食わないとばかりにヒロトは歯を食いしばった。感情がさらに掻き乱されたような気がした。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
