焼く？蒸す？茹でる？ ページ15
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イリーナこそ、オリオン腐敗の元凶にして真の支配者。その性格は、趙金雲に言わせると「とっても意識高い系女子」で、あらゆる気に入らない相手を今まで無慈悲にも切り捨て、排除してきたのだという。
｢十年前親分がオリオンの悪事を暴こうとして、逆にサッカー界から追放された事件、というわけです｣
そんな監督もまた、裏に潜む真相を暴こうとした際に勘づかれてしまい、オリオンどころかサッカー界からも放逐された被害者の一人だったのだ。
｢イリーナ……ベルナルドギリカナンの更に後ろに、そんな黒幕がいたとは｣
野坂は暫く独り言のようなものを呟いていたが、それが引いたところでふと眼をつむり、顎に手を添えたまま眉を寄せ、神妙な面持ちを始める。何かの記憶をじっと吟味しているようでもあった。
｢まあ、彼女にとって私との因縁なんて、餃子を蒸すか焼くかどうでもいいことなんでしょうけどね｣
珍しくひとの悪意をあげつらう趙金雲、よほど腹にすえかねているようだ。しかし子文が、シリアスムードを破壊する。「餃子は茹でるの一択でしょ」中国だから水餃子が主流か。
「私のベストは焼きですよ！」
趙金雲は日本の飯屋に洗脳されたようだ。
｢お前はどっちだよ｣
｢は？｣
傍観していたヒロトが、視線を斜めに落とし、Aに問う。突然話を振られた彼女は、目を瞬かせながら｢何よ急に｣と言いたげな視線を暫く送っていたが、後からして文句を言わずに答えた。
｢普通に焼く一択でしょ｣
｢だよな｣
｢そういうアンタはどうなのよ｣
｢そんなもん、焼くに決まってんだろ｣
あんま食べねーけど……そう付け加えて、呑気に頭の後ろで手を組みはじめる。｢私も最近食べてないなー…｣と謡うよう小声でAも呟き出すと、ヒロトの耳が微かに欹つ。
｢なら、今度行こうぜ｣
｢は？｣
｢中華料理店だよ、あるだろこの辺に｣
｢あるけど…急になんなわけ？｣
いきなり何を言い出すのかと思えば、中華料理店へのお誘いだった。なぜ今このタイミングなのか……そんな考えが駆け回り、Aの頭に様々な疑問が風船のように浮かんでいく。
｢行かないのかよ｣
｢…別にそうは言ってないけど｣
｢決まりだな｣
口角を上げて、どこか嬉しそうなヒロト。珍しく押しの強いヒロトに、Aは指で頬をかくと｢あんたそんなキャラだっけ…｣と少し呆れた言葉をかけたが、その声は本人の耳には届かなかった。
(よっしゃ)
(ヒロト、心の声だけはしまっとけ)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
