あのサッカーをやろう！ ページ50
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何故彼女はそこまで敵を気にかけるのか…そんな疑問が、次々と沼に浮かんでくるどす汚い水泡のように、ブラジル選手の意識に浮かび上がってくる。
｢でも、それでも俺たちは、ベルナルドさんに従うしかないんだ！ベルナルドさんの指示なんだ、これは｣
サムエウは言った。ベルナルドの言うことは一度だって間違ってきたことはなかったと。だから、自分達も今まで疑わずに従ってきたのだ。
｢ああ、あの人の言ったことは一度だって間違ったことなんてなかった。だから従ってきた｣
暗闇の中から光を与えてくれた、生きる希望をくれた存在。彼が手を差し伸べてくれなければ、アルトゥール達は今、この舞台には立っていないだろう。
｢今の俺たちは、サッカーと出会う前と同じになっていた。目的のために自分達の想いを殺して、誤魔化して生きていた｣
アルトゥールは、今のベルナルドについては考えず、かつてのベルナルドの教えに従う。
｢本当の想いを殺して生きていても幸せになれない。ベルナルドさんはそう言っていた」
だったらどうすればと噛みつくミゲルに、アルトゥールは「サッカーをやる。この胸の奥にある気持ちのままに」と胸のチームロゴに手を当てる。
これはチームにとって、初めての反抗だ。無条件で従う子供時代は終わった。
「相手を理解する信頼もあれば、理解してもらおうと努力する信頼だってあるんじゃないのか」
アルトゥールはひとりの人間としてベルナルドを信じる。「わかってくれるさ。ベルナルドさんなら。俺はそう信じる｣
彼らはネイビーインベーダーのように騙されて連れて来られたわけでも、マリクのように生活のためにサッカーをしているわけでもない。ベルナルドに対する忠誠心で世界大会までついてきた。
｢みんな。やろう、サッカーを！｣
｢アルトゥール……｣
他のチームに比べれば、遥かに強い絆でベルナルド個人と結びついている。オリオンから離れることは考えず、しかし指示には逆らうという、一見矛盾した行動を取れる唯一のチームだ。
｢不幸のどん底だったオレたちを幸せにしてくれた、あのサッカーを！今からやるんだ！」
｢あのサッカーだぞ？｣
｢あのサッカーでいいんだな｣
あのサッカー。この一言で皆に伝わるほど、ベルナルドに教えられたサッカーが印象深いということだ。心のままに、サッカーができる。それだけで涙ぐむイレブン。気合を入れて走り出す。
(思いのままにやっていい！行くぞ、みんな！)
(おう！！)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月6日 5時
