フェイント ページ5
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FFI日本対ブラジル戦は、意外な形で幕が開かれた。サンバで体の緊張が解れたところで、両チームの選手達がフィールドに散らばっていく。先程まで顔を緩ませいた彼らの姿はそこにはない。
＜今、キックオフです!!＞
ホイッスルが鳴り響くと、開始早々、ブラジルはバックパスでボールを確実に繋ぎ合う。
｢いきなりバックパスか、消極的じゃねえか｣
｢私たちの出方を伺ってるんだと思う｣
ブラジル陣内へと切り込んでいく中で、灰崎は今までのオリオンの使徒と違った戦略的な戦いに、物足りなさを感じる。その一方でAは、ブラジル選手に妙な違和感を抱いていた。
するとどこからともなく、笛の音と太鼓の音が、けたたましく鳴り響く。どうやら選手として控えているブラジル選手達の仕業のようだ。
｢鬱陶しい音出してんじゃねえよ！バカ騒ぎしやがって!!｣
頭に血が上った灰崎がボールの渡ったルシアンにスライディングをけしかけるが、相手はこれをなんなくとかわす。そしてボールを器用につま先ですくい上げると、そのまま膝の上に乗せる。
｢言った傍から何挑発に乗ってんのよ、もう！｣
｢簡単にかわされてんじゃねぇぞ、灰崎！｣
Aとヒロトが口々にヤジを飛ばす。そうこうしている間にも、ボールはルシアンからへリカルドへ。
｢おいA、どうせボール取れねぇんだから俺をサポートしろ！後ろから回り込め！｣
｢あんたは一言余計なのよ！あと指をさすな!!｣
人差し指を刺した挙句に罵声を浴びせられ、今にも拳を振り下ろしたい気持ちをギリギリにまで抑え、額に青筋を立てながら｢覚えてなさいよ…｣と地の底から這い上がるような声を絞り出す。
｢もう逃げられないぜ？｣
｢いくら俊敏に動けても、前後から挟まれたらあなたも迂闊にパスは出せないでしょ！｣
人差し指をクイッと曲げ、挑発の仕草を見せるのは吉良ヒロトだ。へリカルドの背後では、Aが口元をつり上げて勝ち誇った顔をしている。前後からの挟み撃ちは完璧……そう悟った表情だ。
｢その程度のフェイントでこのゴッドストライ…｣
先に動きだしたのは、この状況の中でも顔色を一つ変えないへリカルドだった。彼は足元でボールを転がすと、ヒロトの注意を引きつける。
＿＿そして
｢股抜きだと!?｣
｢ちょっと…！そんなのアリ!?｣
なんとボールは、ヒロトの股下をくぐり抜けて、後方にいたルシアンへと渡ってしまう。挟み撃ちをしたことで油断した彼のニアミスとも言える結果だ。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月6日 5時
