小道具 ページ40
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集まった選手達が、興味本位で子文の周りを取り囲むように集まり、その中身を上から覗き見る。箱が開き姿を現したのは、びっしりと敷き詰められた様々な小道具たちだった。
「ガムテープに瓶？それに糸か」
「発光シールにゴムまであるぜ！」
一体何に使うんだ……と、膝に両手を当て、中腰のまま目に止まった道具を眺めては呟く万作。片っ端から小道具を手に取っては中を漁る剛陣。どれもこれもサッカーとは何ら関係性のないものばかりだ。
「それでは皆さん、今からこの中にある好きな道具を一つだけ選んでくださーい！」
「これを一体何に使うんですか？」
両腕を横に大きく広げた監督がそう言うと、選手達は不思議そうに顔を見合わせながらも相槌を打ち、道具を手に取り始める。その中で、試しにゴムを手に取って伸び縮みを確かめていた氷浦が訊ねた。
「なるほど。この中の道具を上手く使って、ラフプレーに見せ掛ける……ということですね」
「さすが野坂くん！理解が早くて助かります」
手のひらサイズの小瓶を手に取り、観察するように様々な角度から眺めていた野坂がそう推測をすると、監督は蛇のような目をさらに細め、ニンマリとした笑顔でミニラップを何度も短く鳴らした。
＿＿しかしその一方で。
はぁ…と浮かない顔をした海腹が溜息を零す。
「どうかしたのか？のりか」
「うん……Aのことが心配で」
元気の無い海腹を気にかけて声をかけたのは万作だ。その原因がAに関係していると知ると彼は「あぁ…」そんな曖昧な返事をしてから、帽子の鍔を持つ。
「かなりショック受けてたみたいだから……」
「だが、日暮の気持ちも分からなくはない」
「そうだよね、いくらサッカーのためとはいえ」
その場の空気に流された、と言っても過言ではない。先程、彼女の意見に賛同できなかった海腹は、少なからず後悔の念を抱いていた。
「(こんなの、やっぱり間違ってる。いくら目を覚まさせるとは言え、他にも方法はあるはずなのに)」
後半を控える選手達が次々に用意された道具を手に取り、ユニフォームのズボンや手の平に隠していく中で、その光景を離れた位置から見つめる人物がいた。その作戦に唯一乗り気ではない、日暮Aだ。
「Aちゃん」
「日暮」
彼女の元へ野坂、水神矢が声をかけにやってくる。膝頭から力がぬけて、ただ振り返るだけだったAの体は、水の中で動くように重苦しい。
そして数秒後、小さな頭が諦めるように頷かれた。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月6日 5時
