計略 ページ31
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盛り上がりを見せる白熱とした試合に、会場からは大歓声が響き渡る。前半も残り二分を迎える中、ブラジルのスローイングから試合が再開された。
「さあ、来やがれ！」
ボールが渡り、ドリブルで駆け込むルシアンへと明日人、灰崎、Aの三人が三方向から同時に攻め込んでいく。
身体能力面を数で補い合うと言ったところだろう。さすがのブラジル選手でも、一人での突破は厳しいものがある。
「やるしかねえんだよ！」
「待て、ダニー二ョ！日暮には手を出すな」
「んなこと一々構ってられるか！」
ベルナルドからの命で、彼女に手荒な真似はするなとの指示が下されていたアルトゥールが忠告を促す。しかしヤケになり、心に余裕が持てなくなったダニー二ョの耳には届かず、Aに狙いを定める。
「な、っ…!?」
相手からは狙われないと、読んだ上での野坂の計算で突出していたAが、ダニー二ョと接触。わざとタックルを仕掛けられた挙句、トドメを突き刺すように指先を背中の中央へと押し当てられてしまう。
「A!?」
「Aさん！」
足を取られてバランスを崩した彼女の体は、フィールドに打ち付けられ、蹲るような体勢のまま地面に倒れ込んでしまう。
傍にいた明日人、一星の二人が駆けつける。胸を強く打ってしまったのか、両手で胸元を押さえながら顔を歪めていた。
「どういうことだよ」
話が違うじゃないか、と言わんばかりに、中盤に下がり出方を伺っていたヒロトが野坂へ問いかける。
「どうやら敵も、彼女のことを気にかけられるほどのなりふりを構っていられなくなったようだね」
計算外だったのか、何ともない風を装ってはいるものの、その頬には冷や汗が伝っていた。Aも攻撃対象となってしまった今、新たな作戦の組み立てようすらもなくなってしまう。
「大丈夫？A」
「うん……なんとかね」
「胸、強く打ったみたいですけど」
「大丈夫よ」
手を差し伸ばしてくれた二人の手を取り、立ち上がらせてもらったAは、ぶつけた胸を少し気にするように撫でながらそう言った。
しかし、いや……やはりというべきか。一星と明日人は顔を見合わせると、心配そうな目付きを彼女に向けていた。
「随分と舐めた真似してくれるじゃねえか」
その光景を自陣から、腰に手を当てて眺めていたヒロトは頭を俯かせると片足で芝生を蹴りあげ、ぞっとするほど低い、押しこもった声で呟く。
こめかみには、薄く青筋が浮き立っていた。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月6日 5時
