秘密 ページ12
❀
｢どうかしたの？二人とも｣
険悪な雰囲気が辺りに流れ始めていた中、それを割って堂々と二人の間に入ったのは、野坂だった。
｢西蔭が女の子に大声を出すなんて珍しいね｣
｢申し訳ありません、野坂さん｣
｢いや、謝らなくていい。ただ少し驚いただけさ｣
まるで主人に叱られた犬のように、深々と頭を下げる西蔭。｢何があったんだい？｣問い詰めるような口調ではなく、あくまで優しい声色で野坂が双方の顔を交互に見つめながら問いかける。
｢実は……｣
言いかけた後、頭を下げていた西蔭が顔を上げたタイミングと重なり、再び鋭い眼光で睨まれてしまうA。｢うっ…｣と言葉を詰まらせた彼女に、野坂のみならず、周りも不思議そうな顔をしていた。
＜日本代表陣営の様子が少し妙ですね＞
＜この状況をどう見ますか？角馬さん＞
＜そうですね…試合に影響がないといいのですが＞
試合が一時中断された後のこの空気。それが実況席にいた彼らにも伝わったのか、解説者と実況者の二人が日本ゴール前に佇む西蔭と日暮に視点を当てながら、アナウンスを続けていた。
得策ではないと判断したAは、首を横へと振る。
｢やっぱり、なんでもない｣
｢Aちゃん？｣
｢私が余計なこと言って、西蔭くんを煽ったの｣
｢そうなの？西蔭｣
彼女が意味もなく煽るなどするのだろうか。野坂はどこかその発言に引っ掛かりながらも、西蔭に訊ねる。すると西蔭は、顔色を窺うように下から覗き込んでくる野坂から気まずそうに目を逸らすと｢…はい｣小さな声で短く返事をした。
｢おいおい、お前がそんなことしてどうするんだよ｣
｢全くだぜ。試合中に仲間割れなんてするか？普通｣
｢……その言葉、そっくりそのまま二人に返すわ｣
仲間割れするヤツらの気が知れねえ、と言い合っては、やれやれと肩を竦めるヒロトと灰崎に、Aの額にいくつもの怒筋が浮かび上がる。韓国戦での行いを忘れたとは言わせないばかりに。
｢とりあえず、なんともなくてよかったよ。でも今は、大事な時だ。いがみ合ってる時間は僕たちにはない。一つのミスが命取りになってしまう｣
西蔭やAだけにではなく、野坂は周りに集まってきた仲間たちの顔を、一人一人見回していくように体を動かしていく。
｢気を引き締めて行こう！｣前に出した拳を力強く握り、そう告げた野坂の言葉に、選手達は｢おおっ！！｣声を揃えて呼応した。
(風丸さん…)
(お前って、本当に西蔭と相性が悪いよな)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月6日 5時
