確信犯 ページ6
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鈍感なのかわざとなのか、追求してくる灰崎に耐えられなくなったAは未だに触り続ける頬の指を払うと、彼に背を向けるような形で体を翻した。
「(…落ち着け)」
高鳴る胸に手のひらを当て、熱を持つ頬に手を添えながら固く目を閉ざしたAが心を落ち着かせようと深呼吸を繰り返していると突然、背後からひんやりとしたモノが首にあてられる。
「冷た！？」
首元に手を当てたまま小さな悲鳴を上げてAは飛び上がった。慌てて後ろを振り返ると、そこにはボトルを片手に持った灰崎の姿。向こうも驚かれるとは思わなかったのか、少々頓狂な顔をしていた。
「まだ飲んでなかっただろ。ちゃんと水分補給しねーとこの後の試合バテるぞ」
「…ありがとう」
どうやら、わざわざベンチにまで戻ってまでマネージャーからボトルを貰っていたらしい。Aは手渡されたボトルを手に取ると水分補給を行った。
「ていうか見てたんだね、さっき叩かれてたとこ」
「あれだけバカでかい悲鳴出してりゃ気づくだろ」
「それもそっか」
何かあったのか問われても、彼女は「はぁ…」と何度目かも分からない溜息を零してドリンクに口をつける。
「ねえ、灰崎くん」
「あ？」
名前を突然呼んだかと思えば、ドリンクを体内に流し込み、喉を鳴らすA。唇の端から雫が零れていくのを見つめながら、灰崎は腕を組んだ。
「もしも私が、また洗脳されるようなことがあったら……その時は助けて……くれる？」
「あ？お前、何をわけのわからねぇこと言ってやがる。つくならもっとマシな冗談を──」
突拍子もない縁起でもない発言に顔をますます顰めた灰崎だったが、紡ぎかけていた言葉を噤んだ。とても、冗談を言っているような顔ではなかった。
彼女は哀しげな目をしていた。じっと見返すと静かに溶けてしまいそうな視線。儚げでありながら、胸の奥にしみ込んできて無視できない影を残した。
「当たり前だろうが。そんなことがあるとしたら、俺がお前を闇から救い出してやる。……ま、アイツに助けてもらいたいなら話は別だけどな」
ベンチでアフロディに何やら冷やかされているヒロトに後ろ指を指しながら、灰崎はそう言う。
Aは意外そうに目を丸めていたが、直ぐに安心したように上まぶたを安堵したようにたるませると、羊のような柔和な顔で微笑を漏らした。
(ふふっ…どうしてヒロトがでてくるの？)
(いいからさっさと行けよ。試合、始まっちまうぞ)
(…うん、ありがとう)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年7月16日 12時
