しがらみ ページ49
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オリオン財団が所有する特訓施設に、ボールの跳ね返る音が不規則にスタジアムに響き渡っていた。フィールドの中央には、年端のいかない少年がいる。
足の甲がボールの表面に触れて、ぎゅっと手でつかむような感覚があった。足を大きく振りぬくと、その軌道に合わせて、ボールも勢いよく飛んだ。
リフティングに夢中になり、山吹色の髪を跳ねさせながらぼうっとしていた。心地良い。恍惚感が身体に広がる。｢マリク！｣明日人の声が上がるまでは。
｢明日人、A……どうしてここに？｣
降ってきたボールを手で受け止めてから、マリクは体を反転させる。そこには、いるはずのない稲森明日人と日暮Aが立っていた。
｢体はもう大丈夫なの？｣
｢うん、お蔭さまでね｣
｢…そう｣
顔色を窺うようにして問いかけたマリクであったが、微笑む彼女に素っ気ない返事をすると、体を翻して逃げるようにボールをカゴの中に放り込んだ。
｢マリクは、オリオンでサッカーを続けていくつもりなの？｣
｢え…｣
突然明日人の口からそんなことを問われると、気を緩めていたマリクの体は、まるで地雷を踏んだ様に硬直してしまう。
｢オリオンのサッカーは、マリクがやるべきサッカーじゃないよ｣
｢…ッ!!｣
今まで自分のしてきたことを真っ向から否定されたような気がして、マリクは一瞬傷ついたような表情を見せたが、すぐに睨みを利かせた。
｢ほっといてくれよ！僕には僕の考えがあるんだ!!｣
｢マリクのサッカーは本物だ、俺にはわかる！｣
歯を食いしばり、拳を強く握りしめる。明日人の言葉が胸を抉るように刺さる度に、マリクの腕は怯えるように情けなく震えていた。
｢もっと自由にサッカーをやりたいと思っているはずだ！本当のサッカーを｣
｢なんだよそれ…本当のサッカーって、なんなんだよ！｣
悲痛な思いで訴えたマリクの声色は、今にも泣きだしそうなほど弱々しいものだった。ただでさえ小さな背中が、今はさらに小さく見える。
｢マリクくん…｣
Aはそんなマリクの背に向かって思わず控えめに手を伸ばしてしまうが、自分の手を数秒間見つめると、悔しそうに下唇を噛んでから腕を引っ込めた。
｢俺はマリクに、オリオンを抜けて本当のサッカーをやってほしいんだ！｣
｢だけど…っ!!｣
真っ直ぐな思いを口にする明日人にマリクは困惑していた。瞳の中の黒曜石までもが揺れている。以前の試合を通して、己の気持ちと激しく葛藤しているのがAの目にも窺えた。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年7月16日 12時
