救済 ページ43
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｢だから私はオリオンを変える｣
冷たくなった紅茶の残りを飲み干した新条はテーブルの上で両肘をつき、手を組むと二人を見据えて話す。彼の目はいつも以上に凛として真剣だった。
｢そのために私は、イナズマジャパンを使ってオリオンへの反乱分子を拡大していった｣
｢まさか、一星もあなたが？｣
明日人の口から一星の名前が飛び出すと、その名前に反応するかのように、Aの手に握られていたマドラーが、力を失った吸盤がステンレスから剥がれる時のようにテーブルへ落ちてしまう。
｢A？｣
｢なんでもない……新条さん、話を続けてください｣
｢あぁ｣
はっとして顔を上げたAは、心配そうに首を傾げる明日人を一瞥するとテーブルに転がったマドラーを手に取り、小皿の上に戻した。そして話の論点がズレないように路線へ戻すと、新条が口を開く。
｢私が一星くんをイナズマジャパンに送り込んだのには、いくつかの理由がある。まずは、一星くんの行動を通じてオリオンのやり方を知ってもらうこと｣
裏で新条と繋がっていたという事実が伝えられた。オーストラリア戦後、更衣室を去った一星の後を追いかけたAが観客席で目撃した二人の姿(一星、新条)にも、その話を聞いた後ならば辻褄が合う。
｢そしてもう一つは……一星くん自身の救済だ。君たちと関わることで、彼は救われると思った｣
｢はい、その通りになりました。一星のことでチームの絆は深まり、結果チームは強くなりました｣
人格崩壊に陥っていた一星を救ったのは、紛れもない日本代表だった。その事実は動かし難い何よりもの証拠であり、日本選手の誰もが知るところだ。
話を終えると、無理矢理中断したような、おさまりの悪い空気が残る。緊張が森の樹々のようにびっしりたちこめると、新条の顔色に雲がかかった。
｢だがその裏には、僅かな犠牲もあった｣
｢犠牲？｣
垂れていた頭を上げた明日人は、首を傾げる。一方の新条は、一星の話をしてから一言も口を開かずにただ話に耳を傾けていた少女に視線を移動させた。
｢君には…本当にすまないことをした。一星くんが君に特別な感情を寄せてしまう原因を作ったのは……干渉するよう指示を出した私の責任でもある｣
｢……｣
テーブルに額がついてしまうのではないかと思うくらい、頭を深々と下げて謝罪の意思を見せた新条に、ティーカップを持ったまま薄く開いていた彼女の唇は、糸を縫うように、きゅっと結ばれた。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年7月16日 12時
