容態 ページ34
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日本対ロシアの試合が終わってから数刻が経ち、マリク、ルースを除くロシア選手達は先に控え室へと足を運んでいた。
先程まで声援で騒がしかった会場も今ではその勢いを失い、観客達は席を立つと、試合の余韻に浸りながらスタジアムを後にしていく。
そんな中…控えには向かわず、日本ベンチに赴いていたルースとその後を興味本位で着いてきたマリクは、担架に横たわる日暮Aを見下ろしていた。
｢彼女の容態は？｣
｢頭を強く打った衝撃で、今は気を失っています｣
片膝をつき、呼吸を確認するように口や鼻周辺に手を翳しながらルースがその場にいる者に訊ねると、後からやってきた監督が析谷の代わりに答えた。
｢念の為病院に連れていくつもりでしたが、どうやらその必要はなくなったようですね｣
そう告げた金雲の口元には、明け方の三日月のような笑みが浮かんでいた。その言葉に反応を示さず、ルースは気を失っているAの頭にそっと触れる。
｢特に目立った外傷はない、か｣
｢A…｣
Aの傷の具合を確認するルースの隣で、膝に両手をついたマリクが心配そうに彼女の顔を覗き込む。まるで息をしていないように眠っていた。
元々白い肌は太陽に照らされている事もありより、いっそう色白に映り、ルースが触れても反応すらない。
｢本当に大丈夫なの？｣
｢あぁ｣
｢目、覚ます？｣
｢そのうちね｣
その姿は童話にでてくるような、毒林檎を食べて深い眠りについた白雪姫のようにも見える。白雪姫を忌み嫌い、彼女に毒林檎を食べさせた魔女が自分であるという現実にマリクは、ただただ胸を痛めた。
｢予定通り 彼女の身柄はこちらで預からせてもらう｣
そう言うとルースは、片腕でAの脇から背中に手を回し上半身を支え、もう一方の手を両膝の下に差し入れ脚を支え、彼女を抱き上げる。
上半身を利き手で支え、重心をやや後ろに掛けることによって安定させた彼は何事も無かったかのように歩き出す。
｢おい待て！！｣
しかし、それを良しとしない者がいた。灰崎である。彼はAを連れて立ち去ろうとするルースの背を睨み潰そうとでもしているかのように、忌ま忌ましげな表情で視線を突き刺した。
｢そいつをどこに連れていくつもりだ！？｣
｢…｣
一度足を止めて首だけを軽く後ろに傾けたが、すぐに前へ戻すと、ルースは再び歩みを進める。しかし、納得の行かない灰崎は先回りをするように走り出し、彼の行く手を阻むように立ちはだかった。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年7月16日 12時
