星を超えた想いを36【オリオンの刻印】 (ページ30)

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影武者ページ30

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｢ほらほらみんな、暗い話はそこまでだよ｣

状況を見兼ねた析谷のぱちぱちと手を打つ音が、静かな日本ベンチに響き返って日中に石を割る音のように選手の耳に聞こえる。

｢まだAが脱退すると決まったわけじゃない。一先ず安全を確保するために病院へ連れていこう。話はそれからでも、遅くないからね｣

上手く話を纏めた析谷が、いつもと変わらぬさわやかな笑顔で年長者らしい落ち着いた様子を見せる。各々は思うものがありながらも、今は彼のその言葉を信じて頷くことしかできなかった。

時を同じくして、その頃ロシアベンチでは。見事に勝利をおさめたものの、彼らの心情は、決して晴れ晴れしいものではなかった。

「大丈夫かい明日人？｣

ユーリを初めとするロシアの者達が控え室に向かう中、マリクは先程まで気を失って倒れていたアースこと、稲森明日人の前で膝に両手をつき、中腰になる形で容態を伺うように声をかけた。

｢それにしても……仲間と気づいていながらあの仕打ち、酷いよね。Aのことだって、仲間なのにあんなに冷たい目で見下ろしてるんだよ？信じられる？｣

顔を傾けたマリクの先にいたのは日本ベンチで、冷たく担架に寝そべりAを見下ろす小僧丸だった。仲間にすらもそんな冷たい眼差しを送る小僧丸に対して、マリクは少なからず恐怖すら感じた。

「違うよ」

「え？」

しかし、肝心のアースはそれを否定。小僧丸に気を取られていたマリクは、想定外のアースの発言にキョトンとした顔を向けると、今度は意識をそちらへ集中させる。

「彼は、俺に怪我させないように手を抜いた。恐らく日暮Aに対しての眼差しも、今の俺と似たようなものだからなのかもしれないな｣

明日人にしては冷静な口調だった。そして落ち着いた言動。彼と数日しか絡んでいないマリクでも、その違和感に気づいた。

そしてアースはそんなマリクの心情を悟ったのか、今まで決して外さなかった目元に覆われた黒いバンダナを取り払った。

「君は、誰なの？」

「僕はルース・カシム。稲森明日人の代役だ」

髪質と声は明日人とそっくりだが、外ハネした髪で目つきも角ばった形状で目の色はグレーがかった水色となっている。

「そんな……！それじゃあ、明日人はどこに！？」

思いもよらぬ事態に呆気に取られたマリクは目を瞬かせると体を起こし、空に向かって疑問を投げかける。そんな彼の声は、未だ沸き続ける会場の歓声によって掻き消されてしまった。